“選手村なき国際大会”の実験 44億円のクルーズ船が映す、アジア大会の新しいかたち

2026.3.19

2026年9月から10月にかけて開催される愛知・名古屋アジア大会。

アジア45の国と地域が参加し、五輪に次ぐ規模を誇るこの国際総合競技大会の開幕まで、3月19日でちょうど半年となった。


 

4年に一度開催されるアジア最大級のスポーツの祭典は、単なる競技の場にとどまらない。各国・地域の政治、経済、文化が交錯する「アジアの縮図」とも言える舞台であり、その運営の在り方は、次代の国際大会モデルを占う試金石でもある。今回の大会が注目を集める理由の一つが、「選手村を新設しない」という大胆な方針だ。

大会組織委員会は、建設コストの高騰や大会後の維持管理リスクを見据え、従来型の大規模選手村の整備を見送った。その代替として採用されたのが、既存ホテルに加えたクルーズ船の活用である。言い換えれば、都市インフラを最大限活用し、持続可能性とコスト抑制を両立させる“分散型選手村”の試みだ。

 

その象徴が、イタリア船籍の大型クルーズ船「コスタ・セレーナ」である。

全長約290メートル、約1500室を備え、大会期間中は名古屋港に停泊。選手・役員約1万5000人のうち、約4000人がこの船を利用する見通しだ。契約額は約44億8700万円。巨額ではあるが、恒久施設を新設する場合と比較すれば、総コストは大幅に抑えられるとみられている。

この“海上の選手村”に対しては当初、利便性や居住性を懸念する声もあった。しかし、1月に東京港で実施された視察は、その空気を一変させた。

元体操日本代表の寺本明日香さんは、2019年にナポリで開催されたユニバーシアード(大学生年代の国際総合大会)で同様にクルーズ船に宿泊した経験を引き合いに出し、「入船すると映画のような光景で、非常に印象的だった」と振り返る。今回の船についても「想像以上に広く、実用面でも問題は感じなかった」と評価した。

 

船内にはダイニングホールやフィットネスジムなど、

アスリートの生活と調整を支える機能が一通り備わる。

クルーズ船の使用はアジア大会に限定される予定だ。

それでも、インクルーシブな視点を先取りした設計思想は、

今後の国際スポーツ大会運営に示唆を与える。