MMAスコット・コーカー氏が、巨額93億円 調達の舞台裏 UFCの1強時代に挑む新リーグ構想、その資金はどこから来たのか
「Bellator」や「Strikeforce」を率い、北米MMA市場を拡大させてきたスコット・コーカー氏が、新たな国際MMAリーグ設立を発表した。
だが、今回の発表で業界関係者が本当に驚いたのは、新団体設立だけの話ではない。旗揚げの段階で、6,000万ドル(約93億円)という巨額資金を調達していた点だ。
現在の格闘技市場において、新興MMA団体がここまで大規模な資金を先行確保するケースは極めて異例。しかも今回の資金は、単なるスポンサー収入ではなく、スポーツ投資ファンド、メディア資本、テクノロジー投資家、スポーツチームオーナーらによる“連合型ファイナンス”によって形成されている。
そこには近年のスポーツビジネス市場の変化と、「UFCの次」を狙う巨大マネーの思惑が透けて見える。
■ 「放映権」ではなく「リーグ価値」に投資する時代
従来の格闘技団体は、テレビ局との放映権契約やスポンサー料を軸に成長してきた。
しかし近年、スポーツ業界では構造が大きく変化している。
NFL、NBA、プレミアリーグ、F1など世界的スポーツコンテンツの価値が急騰したことで、投資ファンド側は「試合単体」ではなく、「リーグそのものの資産価値」に投資するモデルへ移行し始めた。
実際、近年はサウジ系ファンドによるゴルフ界再編、F1人気の世界的爆発、MLSや女子スポーツリーグへの大型投資など、“スポーツIP”そのものを保有する動きが加速している。
今回コーカー氏が調達した6,000万ドルも、単純な運転資金ではない。
複数の投資関係者によれば、この資金は、
・リーグ設立準備
・映像制作インフラ整備
・グローバル配信基盤構築
・トップ選手獲得原資
・各国イベントライセンス取得
・マーケティング先行投資
など、数年間の赤字運営を前提にした“先行投資型資金”として組成されているという。
つまり今回の新リーグは、短期黒字化を目指す従来型イベント興行ではなく、「世界市場でリーグ価値を育て、数年後に巨大資産化する」ことを前提に設計されている。
■ 資金調達の中核にいた「スポーツ投資ファンド」
今回の資金調達で中核を担ったとされるのが、クリエイター・スポーツ・キャピタルとグリフィン・ゲーミング・パートナーズだ。
特に近年の米国では、スポーツ専門投資ファンドが急増している。
背景にあるのは、「ライブスポーツは配信時代でも視聴率が落ちにくい」という現実だ。
Netflix、Amazon、Appleなど巨大IT企業がスポーツ配信権へ本格参入する中、投資家たちは「最後までリアルタイム視聴されるコンテンツ」として格闘技市場を再評価し始めている。
さらにMMAは、野球やサッカーに比べてリーグ運営コストが比較的低い一方、グローバル展開しやすい特徴を持つ。
簡潔に言えば、投資家にとって、これほどコスパの良い案件はない。
実際、UFCは現在、年間数十億ドル規模の企業価値を持つ巨大IPへ成長した。
投資家たちが見ているのは、“次のUFC”になれるかどうかだ。
そしてコーカー氏には、その実績がある。
StrikeforceをUFCへ売却し、Bellatorを世界第2位のMMAブランドへ成長させた経験・キャリアは、金融市場から見れば「スポーツIPを育てた実績」と映る。
つまり今回の93億円は、“格闘技への出資”ではなく、“コーカーという経営者への投資”という側面が強い。
■ 「日本市場」が重要視される理由
興味深いのは、今回の投資家陣に日本人ビジネス関係者が加わっている点だ。
ビジョナル株式会社創業者であり、ニューヨーク・ヤンキースのリミテッドパートナーとしても知られる南“Swimmy”壮一郎氏が参画したことで、日本市場との接続が一気に現実味を帯びた。
MMA業界では現在も、日本は“特別市場”として扱われている。
PRIDE時代に形成された熱狂的ファン文化、地上波格闘技の歴史、そしてRIZINの存在によって、日本は依然として世界有数のMMA消費国だからだ。
実際、北米関係者の間でも「日本市場を制するリーグは、アジア展開を制する」との認識は根強い。
コーカー氏自身もBellator時代から日本市場への理解が深く、RIZINとの協業を通じて“日米共同イベントモデル”を成功させてきた。
今回の新リーグでも、日本が重要戦略地域になる可能性は高い。
■ 「UFC一強」に風穴は開くのか
もっとも、現実は簡単ではない。
現在のUFCは、選手層、ブランド力、放映網、スポンサー収益、SNS影響力のすべてで圧倒的な支配力を持つ。
それでも投資家たちがMMA市場へ資金を投じ続けるのは、「市場自体がまだ拡大している」からだ。
世界のMMAファン人口は6億人超とも言われ、特に中東、インド、東南アジア、アフリカでは急速に成長を続けている。
つまり現在のMMA市場は、“完成された業界”ではなく、“拡張中の巨大市場”なのである。
コーカー氏の新リーグは、その拡張市場へ向けた“次世代MMAビジネス”の実験とも言える。
そして今回の93億円調達は、その構想に対して金融市場が
一定の期待を示した証左でもある。
【文:高須基一朗】

