【ONE】安保瑠輝也VSシュマロフが試合中止に ハイドレーションテスト不合格、選手の主張とルール順守の責任をどう考えるべきか
格闘技イベント「ONE SAMURAI 4」で予定されていた安保瑠輝也選手とボグダン・シュマロフの一戦が中止となった。ONE Championship(ONE)は10月17日、安保選手がハイドレーションテストと計量をクリアできなかったことを理由に、試合の中止を公式発表した。
安保選手は検査制度に対する疑問を自身のSNSで訴え、運営への不満をあらわにした。選手の健康を守るための制度が、実際のコンディション調整にどのような影響を及ぼしたのか。この問題には検証すべき論点がある。
一方で、競技には定められたルールがあり、選手はその条件の下で試合に臨むことが求められる。制度に疑問があることと、規定をクリアできなかった事実は、分けて考えなければならない。今回の中止を、制度への批判だけで終わらせず、選手、運営、競技全体のそれぞれが何を受け止めるべきなのかを整理する必要がある。
■ 2度のハイドレーションテストに失敗 尿検査は9回 試合成立に至らず
ONEの公式発表によると、安保選手は本試合に向けたハイドレーションテストおよび計量をクリアできず、試合は中止となった。
前日の10月16日、午前10時から実施された計量とハイドレーションテストで、安保選手は午前10時27分ごろに会場に到着。体重は169.4ポンド(約76.83キロ)だったものの、ハイドレーションテストを通過できなかった。
その後、調整を経て午前11時52分ごろに再び会場に姿を見せたが、ハイドレーションテストに失敗。体重も170.2ポンド(約77.2キロ)となり、規定の体重を超えた。
さらに、計量の制限時間が迫るなか、午後1時の直前にも会場に現れたが、ハイドレーションテストと体重測定を実施するには至らなかった。
安保選手はその後も検査を続け、同日夜には自身のXで8回目のハイドレーションテストの様子を動画で公開した。しかし、最終的に基準をクリアできなかった。
翌17日朝にも9回目の検査に臨んだことを報告したが、結果は不合格。
試合成立に必要な条件を満たせず、シュマロフとの対戦は実現しなかった。
■ 安保選手は制度に疑問「何のためのルールなのか」
安保選手は、検査を繰り返しても合格できなかったことについて、尿の濃度が基準を満たさなかったと説明している。
自身のSNSでは、朝の最初の検査時点で脱水症状は感じておらず、水分を大量に摂取していたにもかかわらず、検査を通過できなかったと主張。
さらに、検査に合格するまでは体重を大きく戻せず、
食事や水分摂取を含めたコンディション調整にも制約が生じたと訴えた。
安保選手は、選手の健康を守るために設けられたルールが、かえってコンディションを悪化させるのであれば、その制度の目的を改めて考える必要があるとの見解を示した。
17日の朝の投稿では、前夜の食事をバナナだけにとどめ、排尿しやすくするためにカリウムを含む水分を摂取したものの、朝の検査でも不合格だったと説明。
最終的に試合が成立しなかったことを報告した。
また、運営側とのやり取りについても不満を表明。
「ルールなんで」という説明だけでは納得できないという趣旨の主張を展開し、制度が選手の健康を守るという本来の目的にかなっているのか、疑問を投げかけた。
こうした訴えは、選手が実際に経験した問題として受け止める必要がある。
ただし、安保選手が感じた体調や水分摂取の状況と、検査結果が示す数値は別の問題だ。本人が脱水を感じていなかったことだけで検査基準の妥当性を判断することはできず、
検査方法や判定基準を含めた客観的な検証が必要になる。
■ ルールはルール。守れなかった事実から目をそらしてはならない
今回の問題で、最も明確にしておかなければならないのは、競技のルールは、選手それぞれの考えや事情によって任意に変更できるものではないという点だ。
ハイドレーションテストの制度に改善の余地があるとしても、規定が設けられている以上、選手はその条件を理解し、試合当日までにクリアできるよう準備を整えることが基本となる。
今回、安保選手は複数回にわたって検査を受けたものの、最終的に基準をクリアできなかった。その結果、試合は中止となった。これは、制度への賛否とは別に、動かすことのできない事実である。
もちろん、検査を繰り返しても合格できなかった背景には、個人の体質、減量計画、水分摂取のタイミング、検査までの調整、当日の運用など、複数の要因が関係していた可能性がある。現時点で、その原因を一つに断定することはできない。
しかし、だからといって、規定をクリアできなかったという結果がなくなるわけではない。
競技の世界では、選手の実力や努力だけでなく、契約条件、計量、健康管理、安全基準など、試合を成立させるための条件を満たすことも重要な責任の一つとなる。どれほど試合への意欲が強くても、どれほど厳しい調整を続けていても、必要な条件を満たせなければ、対戦が成立しない場合がある。
安保選手が制度に疑問を抱いたこと自体を否定する必要はない。
だが、制度への不満を訴えることと、自身が規定をクリアできなかった事実を真摯に受け止めることは、両立できるはずだ。
まずは今回の結果を正面から受け止め、何が原因だったのかを検証し、次の試合に向けて改善すべき点を明らかにする。その姿勢こそが、プロ選手として今後の信頼を築くうえで欠かせない。
■ 制度に問題があるなら検証を。ただし、結果と責任は別問題
一方で、今回の中止を安保選手個人の問題だけに帰結させることも、適切とはいえない。
ハイドレーションテストは、急激な減量や脱水に伴う健康リスクを抑えるための仕組みとして用いられる。体重だけを基準にするのではなく、選手の水分状態を確認することで、安全面に配慮する考え方だ。
制度の目的が正当であることと、実際の運用が適切であることは同じではない。
検査の判定基準、再検査の手順、選手への説明、計量までの時間的な余裕などについて、改善できる点がないかを検証することには意味がある。
今回、安保選手は複数回の検査を受けたと説明している。
なぜ合格に至らなかったのか、検査結果はどのような基準で判定されたのか、選手側は事前に十分な説明を受けていたのか。こうした点について、確認できる事実をもとに整理する必要がある。
ただし、検査に合格できなかったことだけをもって、制度そのものに欠陥があると結論づけることもできない。
そして、何より、この合格ラインを厳守して試合に挑んでいる選手たちがいるのも事実だ。
■ 影響を受けるのは対戦する2人だけではない
試合中止による影響は、安保選手だけにとどまらない。
対戦相手のシュマロフも、試合に向けて準備を重ねてきたはずだ。
対戦相手がいる競技では、一方の選手が試合成立の条件を満たせなかった場合、もう一方の選手にも出場機会や準備に関する影響が及ぶ。
さらに、チケットを購入して会場を訪れる観客、試合を楽しみにしていたファン、興行を支えるスポンサーや関係者にも影響が広がる。大会を放送・配信する事業者にとっても、予定された対戦カードの変更は興行全体に関わる問題となる。
安保選手はSNSで、観戦を予定していたファンに対して謝罪の言葉を述べた。この点は、今回の中止によって影響を受ける人々がいることを本人も自覚して責任がある点を示している。
だからこそ、試合が成立しなかった理由を制度への不満だけで説明するのではなく、対戦相手や観客、関係者に対する責任も含めて、今回の経験を振り返ることが重要になる。
プロの興行は、選手個人の意思だけで成立するものではない。選手、対戦相手、主催者、関係者、観客が、それぞれの役割と責任を果たすことで成り立っている。
■ 問われるのは、規則の順守と説明責任の両立
定められたルールがある以上、選手はその内容を十分に理解し、クリアできるよう計画的に準備することが求められる。規定を満たせなかった場合には、その事実を受け止め、原因を分析し、改善につなげなければならない。
同時に、運営側にも、規則の目的や判定基準を明確に伝え、選手が適切に準備できる環境を整えることが求められる。制度の運用に疑問が示された場合には、感情的な応酬ではなく、客観的な資料と専門的な知見に基づいて説明することが望ましい。
競技の公平性を守るためのルールは、誰か一人の都合で適用を変えることができない。
だからこそ、安保選手は試合をする権利を失い、失格で試合中止となった。
ルールはルールとして守る。そして、守れなかった事実は真摯に受け止める。そのうえで制度に改善すべき点があれば、根拠を示して議論する。 この順序を崩さないことが、選手と運営の双方に求められる姿勢ではないだろうか。

