那須川天心選手の苦言は会見の本質を捉えていたのか スターだからこそ求められる「言葉の重み」
9月27日に開催される「Prime Video Boxing 16」のWBC世界バンタム級タイトルマッチに向け、井上拓真選手と那須川天心選手が公開記者会見に臨んだ。
約10か月ぶりとなる注目の再戦発表の場とあって、会場には多くのファンや報道陣が集結。ボクシング界を代表するカードとして大きな注目を集める中、会見後には那須川選手が運営側に対し
「なんなんだろうこの会見」
「俺ら本気なんだからガチでやってくれよ」と、不満をあらわにした。
那須川選手が指摘したように、公開記者会見でありながら質問の機会が限られ、ファンやメディア双方にとって物足りなさが残る構成だったという見方は理解できる。世界戦の再戦という大舞台であるだけに、より緊張感のある演出や充実した質疑応答を期待していたことも自然だろう。
一方で、この発言には別の視点もある。
今回の公開記者会見は、歌舞伎町タワーという都内屈指の大型施設を会場として実施された。こうした会場の確保だけでも、施設側との調整やスポンサーとの連携、警備、音響、照明、映像配信、報道対応、進行管理など、多くのスタッフが長期間にわたり準備を積み重ねてきたことは想像に難くない。
さらに、井上選手、那須川選手をはじめ、関係者全員が多忙なスケジュールを調整し、一堂に会するだけでも容易ではない。世界戦発表という一つのイベントを成立させるために、多くの人々が舞台裏で尽力している。
だからこそ、会見が始まった時点で、このイベントはすでに大きな価値を持っていたと言える。
もちろん、改善点を指摘すること自体は悪いことではない。
むしろ、世界戦をより良いものにしたいという
那須川選手の真剣さがあったからこその発言だったとも受け取れる。
しかし、その言葉が会見直後という公の場で発せられたことで、結果として運営スタッフやイベント制作に携わった多くの関係者の努力まで否定しているような印象を与えてしまったことは否めない。
リングの上で戦う選手は主役である。
しかし、その舞台を作り上げているのは選手だけではない。華やかなイベントの裏側には、多くのスタッフやスポンサー、関係企業の存在があり、
その積み重ねがあって初めて世界戦という大舞台が成立する。
那須川選手は、日本ボクシング界でも屈指の発信力を持つスター選手だ。
その影響力が大きいからこそ、発言はファンだけでなく、
イベントを支える多くの関係者にも届く。
より充実した記者会見を望む気持ちは理解できる。
しかし、その思いを伝えるのであれば、舞台を支えた人々への敬意を示した上で改善を求める形であれば、受け止められ方も違っていたかもしれない。
世界戦はリング上だけで成り立つものではない。
選手、プロモーター、スポンサー、スタッフ、
そして会場を提供する施設など、多くの人々が一体となって初めて実現する。
だからこそ、スター選手には競技力だけでなく、その舞台を支える人々へのリスペクトを言葉で示す姿勢も求められる。今回の一件は、世界戦というビッグイベントの価値と、それを陰で支える人々の存在について、改めて考えさせられる場面となった。
【文:高須基一朗】

