NPB=日本野球機構が「SNS誹謗中傷監視システム」を導入 審判員への悪質投稿を可視化、法的措置も視野 スポーツ界で進む“デジタル警備”の最前線
【©️日本野球機構】
日本野球機構(NPB)は7月1日、SNS上で審判員に向けられる誹謗中傷や脅迫、名誉毀損などの悪質な投稿への対策を強化するため、「SNS誹謗中傷監視システム」を導入したと発表した。近年、判定を巡る批判がエスカレートし、人格否定や脅迫まがいの投稿が相次ぐ中、審判員が安心して職務に専念できる環境づくりを目的とした新たな取り組みとなる。
NPBは声明で、SNSはファン同士の交流や意見交換を通じてプロ野球の魅力を広げる重要なコミュニケーションツールであると位置付ける一方、その利便性の裏側で、審判員個人を標的とした誹謗中傷や侮辱、脅迫的な投稿が増加している現状に強い危機感を示した。
「審判員の名誉や尊厳、人権を傷つける行為は、いかなる理由があっても容認できない」とした上で、SNS上の投稿を継続的に監視し、悪質なケースには厳正に対処する姿勢を明確にしている。
▪️AIと専門スタッフが連携 「監視システム」はどのように機能するのか
今回導入される「SNS誹謗中傷監視システム」の詳細は公表されていないが、企業やスポーツ団体で導入が進む同種のシステムでは、AI(人工知能)による自然言語解析と専門オペレーターによる目視確認を組み合わせた運用が一般的となっている。
システムは「審判」「球審」「NPB」などの関連キーワードに加え、審判員の氏名やSNSアカウントなどを対象に24時間体制で投稿を収集。AIが膨大な投稿を解析し、「殺す」「消えろ」などの脅迫表現や人格否定、差別的表現、個人情報の拡散(ドキシング)などを危険度ごとに分類する。
その後、AIが抽出した投稿を専門スタッフが確認し、単なる試合内容への批判や意見表明なのか、それとも違法性が疑われる誹謗中傷なのかを法的観点も踏まえて判断。悪質性が高いと認定された場合には、SNS運営会社への削除要請やアカウント通報を行い、必要に応じて投稿者情報の開示請求や警察への相談、民事・刑事の法的手続きへ発展するケースも想定される。
つまり、AIが自動的に処分を決めるのではなく、「AIによる検知」と「人による最終判断」を組み合わせることで、表現の自由とのバランスを保ちながら悪質投稿を排除する仕組みが主流となっている。
▪️海外スポーツ界でも広がる「デジタル監視」
SNS上の誹謗中傷対策は、日本だけの課題ではない。
サッカーでは、国際サッカー連盟(FIFA)が2022年カタール・ワールドカップでAIを活用したSNS監視システムを導入。選手や審判、関係者に向けられた数百万件に及ぶ投稿を解析し、人種差別やヘイトスピーチ、脅迫投稿を自動検知。違反投稿については各プラットフォームと連携し、削除やアカウント対応を進めた。
また、イングランドのプレミアリーグやイングランドサッカー協会(FA)でも、AI監視サービスを導入し、審判や選手へのオンライン上の脅迫・差別投稿を継続的にモニタリング。悪質投稿の投稿者を特定し、警察への通報やスタジアムへの入場禁止処分に発展した事例も報告されている。
テニス界では、ATPツアーやWTAツアー、国際テニス連盟(ITF)が共同でAI監視システムを運用。試合期間中に選手へ送られる大量の中傷メッセージをリアルタイムで分析し、脅迫や暴力的表現を含む投稿についてはプラットフォームへの削除申請や法的措置につなげる体制を整備している。
▪️批判と誹謗中傷の線引きが課題に
一方で、SNS監視システムの運用には慎重さも求められる。
試合内容や判定に対する批判や意見は、スポーツ文化の一部であり、表現の自由として保護されるべき側面もある。そのため、「判定は誤っていた」という競技内容への意見と、「審判を辞めろ」「家族ごと消えろ」といった人格攻撃や脅迫との線引きを適切に行うことが重要となる。
国内でも芸能界やスポーツ界でSNS誹謗中傷を巡る訴訟が増加しており、プロスポーツ団体がAI監視や法的対応を組み合わせて選手や審判員を守る動きは今後さらに広がる可能性が高い。
NPBの今回の取り組みは、単に審判員を守るためだけではない。
選手、監督、コーチ、スタッフなど競技に携わるすべての関係者が
安心して野球をプロフェッショナルに活動ができる環境を整備する第一歩となる。

