韓国シャインマスカット急落 農業を揺るがす過剰生産 日本発の高級品種が招いた価格競争の現実

2026.10.28

日本で開発され 数年前まで高級ブドウとして知名度を高めた「シャインマスカット」が、韓国で価格下落に直面している。

栽培面積は約10年で大幅に拡大し、一時は韓国のブドウ栽培全体の約4割を占めるまでに普及した。一方、生産の急拡大によって供給過剰が進み、かつて高級品として取引されていた同品種の卸売価格は、ピーク時の約3分の1に落ち込んだという。

韓国では輸出拡大によって販路を確保する動きが進むが、国内の過剰生産を海外市場への出荷だけで吸収できるとは限らない。日本で生まれた優良品種が海外で広く栽培され、産地間の競争が激しくなるなか、今回の価格下落は、農業における品種開発、知的財産の保護、生産調整の重要性を改めて浮き彫りにしている。

 


▪️高級ブドウから一転、卸売価格はピーク時の約3分の1に


西日本新聞の10月28日付報道によると、韓国・ソウル市内の卸売市場におけるシャインマスカットの価格は、2020年8~10月に2キロ当たり2万8532ウォンを記録した。その後、価格は下落し、2026年の同時期には8746ウォンとなった。報道の数字を比較すると、ピーク時の約31%に相当する水準だ。

シャインマスカットは、種がなく皮ごと食べられる手軽さや強い甘みが評価され、韓国でも人気を集めてきた。高級果実として販売価格を確保できた時期には、生産拡大を目指す農家にとって魅力的な作物だったと考えられる。

しかし、多くの農家が同じ品種に参入すれば、市場に供給される量は増える。需要の伸びが供給増加に追いつかなければ、価格には下落圧力がかかる。資材費や人件費などの生産コストが高止まりすれば、販売価格が下がるほど農家の経営は厳しくなる。

今回の価格下落は、人気品種への集中が農家の収益を必ずしも保証しないことを示している。

 


▪️約10年で栽培面積が急拡大、ブドウ産業の約4割に


シャインマスカットは2006年に日本で品種登録された。日本で開発された品種だが、韓国や中国などでは苗木が流出する形で栽培が広がり、韓国では2014年ごろから本格的な生産が始まったとされる。

海外での品種登録をめぐる手続きには期限があり、海外で権利を取得できなかったことが、国外での栽培拡大を許す一因となった。品種の開発国が国内で権利を持っていても、海外での権利保護が自動的に確保されるわけではない。この制度上の問題は、日本の農業が長年直面してきた課題の一つだ。

報道によると、韓国のシャインマスカット栽培面積は2016年に推定約278ヘクタールだったが、2024年には約6300ヘクタールに拡大。生産量は約10万トンに達し、韓国のブドウ栽培面積に占める割合は約4割となった。栽培面積は日本の約2倍に相当するという。

優れた品種が消費者に支持され、生産者の参入を呼び込むこと自体は、農業の成長過程で起こり得る。しかし、栽培面積が短期間に拡大すれば、市場の需要動向や将来の価格を見極めることが難しくなる。高収益を期待して設備投資や借り入れを増やした農家ほど、価格下落の影響を強く受ける可能性がある。

 


▪️新規就農者の自殺が示した農業経営の厳しさ


韓国では、シャインマスカットを栽培していた若手農家の自殺が報じられた。

西日本新聞によると、2021年に就農した農家が価格下落と生産費の上昇によって借金返済に苦しんでいたと、韓国メディアが伝えた。

韓国農林畜産食品省は10月19日、青年農家が置かれた厳しい状況の改善に努めるとの趣旨のコメントを発表した。韓国ブドウ協会も、今回の問題を個人だけの事情として扱うことはできず、多くの農家が同様の課題に直面しているとの声明を出したという。

農業は、苗木の購入や施設整備、栽培管理など、収穫して販売するまでに多くの費用と時間を必要とする。生産量をすぐに減らせない一方、出荷時期に供給が集中すれば、市場価格の下落を避けにくい。

とりわけ、新規就農者が借り入れを伴って生産設備を整えた場合、収益の悪化は返済計画に直結する。個々の農家の努力だけでは解決できない市場構造の問題として、品種の分散、販売先の確保、経営リスクへの備えが問われている。

 


▪️輸出は拡大、それでも国内の供給過剰を解消できるか


韓国では、シャインマスカットの国内価格を下支えするため、輸出先の開拓が進められている。報道によると、韓国産シャインマスカットなどのブドウ輸出量は2022年の1515トンから2025年には8252トンへ増加した。

輸出拡大は、国内市場に集中していた供給を分散させ、生産者の販売機会を増やす手段となる。ただし、輸出量が増えたことだけで、国内の供給過剰が解消されたとはいえない。輸出先で十分な需要を確保できるか、品質や価格の競争力を維持できるかが重要になる。

日本産のシャインマスカットも、韓国産や中国産などと海外市場で競合する可能性がある。日本が開発した品種であっても、海外で同じ品種が生産されれば、開発国という理由だけで市場を独占できるわけではない。ブランド価値、品質管理、安定供給、輸出先での販売戦略など、総合的な競争力が問われることになる。

 


▪️苗木の流出が突きつける 日本農業の知的財産戦略


今回の問題は、韓国の生産過剰だけでなく、日本の品種保護のあり方を考えるうえでも重要だ。

農産物の新品種を開発するには、研究、育種、試験栽培など長い年月と費用がかかる。ところが、開発した品種が海外に広がり、現地で生産が拡大しても、海外での権利保護が不十分であれば、開発者がその利益を十分に確保できない場合がある。

品種の海外流出を防ぐには、国内での管理だけでなく、海外での品種登録、権利行使、苗木の流通管理、輸出戦略を一体的に進める必要がある。優れた品種を生み出す力に加え、その価値を国際市場で守り、継続的な収益につなげる仕組みが欠かせない。

一方、韓国側にとっても、特定品種への依存は経営リスクとなる。生産者が一斉に同じ品種を栽培すれば、人気が続く間は利益を得られても、供給が需要を上回った途端に価格競争が激しくなる。品種の多様化や需要に応じた生産計画は、産地の持続性を高めるうえで重要な課題だ。

 


▪️人気品種の成功が産地全体の安定を保証するわけではない


シャインマスカットの価格下落は、優良品種の普及がそのまま農家の長期的な繁栄につながるわけではないことを示している。品種の魅力が生産拡大を促す一方、参入が集中すれば供給過剰を招き、農家同士の価格競争を激化させる可能性がある。

日本にとっては、育種の成果を守る知的財産戦略と、海外市場を見据えた農産物のブランドづくりが課題となる。韓国にとっては、生産量の拡大だけでなく、

需要に見合った生産体制や経営リスクの分散が求められる。