米国務省がUFCと提携「野蛮な競技」から国家資産へ 格闘技IPが生み出す数十億ドル経済圏
11日(=日本時間12日)に米国務省が
総合格闘技団体UFCとのパートナーシップ協定に署名し正式に締結した。
かつて総合格闘技は「暴力的」「野蛮なスポーツ」と批判され、米国内でも一部州で興行規制の対象となった歴史を持つ。しかし2026年現在、その評価は大きく変化している。UFCは単なる格闘技団体ではなく、米国を代表するスポーツ・エンターテインメントIP(知的財産)へと成長し、その経済価値はウォール街でも明確な数字として評価されている。
UFCを傘下に持つTKOグループホールディングス(NYSE: TKO)の時価総額は約389億ドル(約5兆6000億円)に達する。2025年度のグループ売上高は47億3500万ドル、純利益は5億4620万ドルを記録。2026年度は売上高57億ドル超を見込んでおり、スポーツ・エンターテインメント企業として過去最高水準の成長局面に入っている。
その成長を支えているのがUFCというコンテンツそのものの収益力だ。
2025年度のUFC事業売上高は約15億ドル。
内訳を見ると、メディア放映権収入が約9億780万ドルと全体の6割超を占める。スポンサーシップおよびマーケティング収入は3億1400万ドル、ライブイベント収入は約2億3300万ドルとなっており、もはや興行収入だけに依存するビジネスモデルではない。
世界的な映像コンテンツとして収益を生み出す構造が確立されている。
市場が特に注目したのは放映権ビジネスの急拡大だ。
2025年には米メディア大手パラマウントがUFCの米国内放映権を7年間総額77億ドル(約1兆1000億円)で獲得。年間換算では約11億ドルとなり、従来契約を大幅に上回る大型ディールとなった。ライブスポーツコンテンツの価値が高騰する中でも、UFCはNFLやNBAに次ぐ有力IPとして放送業界から高い評価を受けている。
投資家の評価も同様だ。
TKO株はニューヨーク証券取引所上場後、一貫して高い評価を維持しており、アナリストの多くが「買い」推奨を継続している。市場ではUFCの放映権価値上昇や国際展開による成長余地が評価されており、スポーツIPとしての収益安定性が株価を支える要因となっている。
今回の米国務省との提携も、その文脈の延長線上にある。
協定ではUFC選手やコーチがスポーツ大使として海外で活動し、若年層向けのクリニックや交流プログラムを実施する予定だ。国務省はUFCを「世界中で視聴される米国文化の発信装置」と位置付けている。
興味深いのは、米政府が活用しようとしているのが競技そのものではなく、
UFCというブランドIPである点だ。
ハリウッド映画、NBA、NFL、ディズニー作品が米国のソフトパワーを支えてきたように、UFCもまた世界規模で認知される文化輸出コンテンツへと進化した。
現在では世界200カ国以上で視聴され、
約10億世帯近くにリーチするグローバルメディア資産となっている。
14日にホワイトハウス南庭で開催されるUFC大会は、その象徴的なイベントとなる。
かつては「野蛮な見世物」と批判された総合格闘技が、いまやホワイトハウスで開催され、米国務省が外交資産として活用する時代になった。
その変化を支えたのは理念ではない。
放映権、スポンサー収入、株式市場の評価、そして数十億ドル規模の契約によって証明された経済的価値だった。スポーツの社会的地位を最終的に押し上げるのは、
しばしば文化論ではなく市場価値だ。
【文:高須基一朗】

