「律、そのまま」に込められた必勝プラン

2025.10.15

森保監督の90分間の戦略と布陣が導いた、歴史的逆転劇

【©️JFA】

森保一監督率いる日本代表(FIFAランク19位)が、東京スタジアムで歴史を塗り替えた。10月14日に行われたブラジル代表(同6位)戦で、前半2失点から3-2の大逆転勝利。

ドイツ、スペインに続き、ついに“サッカー王国”をも撃破したこの一戦は、奇跡ではなく、緻密に計算された90分間の戦略が生んだ必然の勝利だった。

 

■前半は「ミドルブロック」、後半への布石

森保監督は試合開始から、あえて前線のプレスを抑えたミドルブロックを選択。

前半でリズムを奪われ、2点を失ったように見えたが、実はそれが“後半勝負”への伏線だった。
堂安律選手が「前半は体力を温存していたから、後半にエネルギーを注げた」と語る通り、チーム全体のスタミナと集中力を計画的にコントロールした結果、後半の爆発的なギアチェンジが実現した。

 

■ハーフタイムの「再構築」―リーダーシップの共有

ロッカールームでは、森保監督と南野拓実キャプテンが中心となり、チームを再びひとつに束ねた。
南野選手の「この試合はまだ死んでいない!」という声に、戦術とメンタルの両面で再起動。コーチ陣が短時間で役割を再明確化し、後半開始から一気に圧をかけるシステムへと切り替えた。3-6-1の布陣が機能し、7分に南野選手が反撃の狼煙を上げると、17分に中村敬斗選手、26分に上田綺世選手のゴールで逆転。

世界を驚かせた。

 

■「律、そのまま」逆転の一手を生んだ配置転換

勝負を決定づけたのは、後半途中での伊東純也選手の投入のタイミングだった。

久保建英選手の負傷を考慮し、伊東選手をシャドーに配置するという一見意外な采配。
この時、森保監督は堂安に「律、そのまま」と指示。

これまでの森保監督の采配では、堂安選手を中央に戻すところを、あえてウイングバックに固定し、伊東選手を内側で走らせる大胆な組み合わせを選んだ。

結果、伊東選手は自由なスペースを使うことが叶い、2アシストで試合を決定づけた。

堂安選手は、試合後、この采配に「すげぇなと思いました。僕が外で起点になれていたのを監督は見ていたんだと思う」と感嘆。

局面ごとの判断と、選手の特性を即座に見抜く森保監督の戦術眼が、まさに勝敗を分けた。

 

■不在を埋めた“チーム戦術”の完成度

 この試合では、遠藤航選手、三笘薫選手、冨安健洋選手ら主力が軒並み欠場。

それでも谷口彰悟選手、渡辺剛選手、鈴木淳之介選手らが堅実にラインを支え、

組織としての守備は崩れなかった。

2失点してなお崩れない構造。

森保監督がこの3バックを選んだ意図は明確だった。

ビルドアップ時には中盤を厚くし、ブラジルのカウンターに対しては5バック化する可変システム。

守備と攻撃の両局面で“構造的優位”を作り出す、最新の日本型戦術の完成形だった。

 

■“戦術カタール”から“戦略ニッポン”へ―W杯優勝も視野に

堂安選手が冗談めかして口にした「戦術カタール」。

それはもはや過去の成功体験ではない。

ブラジル戦で見せたのは、その発展形―「90分間を支配する戦略的チーム」だった。
前半を耐え抜いて、後半で仕留めるプラン。

選手層の厚み、可変的な布陣、試合中に即座に修正するコーチ陣の対応力。

すべてが整い始めた今の日本代表に、もはや“奇跡”という言葉ではなく必然での勝利とも言えるだろう。

この布陣、この戦略、この成熟度。
北中米で開催されるW杯では、いよいよ「世界王者」も現実的な目標として見えてきた。