【音楽シーンに一つの幕】T-BOLAN、47都道府県ラストツアー発表 活動終了へ
▪️「引退でも解散でもない」と語る“終着点”
1990年代に一世を風靡したロックバンド・T-BOLANが、9月から始まる全国47都道府県ツアーをもってライブ活動を終了する。7月10日、デビュー記念日にファンクラブ向け配信を通じて発表された。
「引退でも解散でもない」。ボーカルの森友嵐士(59)は、ファンにそう語りかけた。しかし、事実としてこのツアーがT-BOLANの“ラストライブ”であることに変わりはない。
バンドは1991年、シングル『悲しみが痛いよ』でデビュー。
「離したくはない」「Bye For Now」「じれったい愛」など数々のヒットを放ち、CD売上は1700万枚超。90年代のJ-POP黄金期を彩った存在だ。
だが栄光の裏で、森友は心因性発声障害に悩まされ続けた。
1999年にはその症状を理由にバンドは活動停止。長い沈黙を経て2017年に再始動したものの、森友の体調は万全とは言い難かった。昨年のツアーも完走したが、「満身創痍だった」と関係者は語る。
今回の決断は、「理想とするライブのクオリティーを維持できない」との苦渋の判断による。メンバー全員で協議を重ねた末に、ステージから退く選択をした。
とはいえ、これは決別ではないと、森友は繰り返す。「終わりを決めたというより、今を生きる選択」とも受け取れるその言葉には、これまで支えてくれたファンや関係者への感謝と、自身の限界と真摯に向き合った誠実さがにじむ。
ラストツアーは9月から来年にかけて全国47都道府県を巡る大規模なものとなる予定だ。メンバーは「この旅の終わりに、何が芽生えているかはまだ分からない」としながらも、「今を本気で生きることが、未来を動かす力になる」と語った。
バンドの名を冠した最後の旅。その幕が上がるとき、T-BOLANは過去でも未来でもなく、「今」という一瞬に全てを懸ける覚悟を見せる。
【文:高須基一朗】