YOASOBI 幾田りらさんの札幌路上ライブを「集客苦戦」と結びつけるのは早計 自分の目で街を見て歌を届ける意味

2026.10.22

YOASOBIのボーカルとして国内外で活躍する幾田りらさんが10月17日、札幌市内で路上ライブを行った。11月14、15日に大和ハウス プレミストドームで開催される公演を前にしたこの行動について、日刊SPA!は10月22日、

「再生数と集客」のギャップという観点から取り上げた。

記事では、YOASOBIの楽曲の累計再生回数が100億回を超えていることなどを挙げ、動画再生数の大きさとドーム公演の集客力は必ずしも一致しないと指摘している。

確かに、インターネット上での再生回数と、実際に会場へ足を運ぶ観客の数は別の指標だ。しかし、そこから幾田さんの路上ライブを集客の苦戦と結びつけ、その行動を批判的に評価することには慎重であるべきだろう。

今回、注目したいのはチケットの販売状況だけではない。幾田さんが自分の目で北海道の街を見て、現地の空気を感じ、自分の歌を直接届けようとした行動そのものだ。

 


■再生回数とライブの集客力は、そもそも異なる


日刊SPA!の記事は、YOASOBIのYouTube公式チャンネルの登録者数や楽曲の累計再生回数を取り上げ、オンラインでの大きな数字が必ずしもライブの動員に直結しない可能性を論じている。

この問題提起そのものは、音楽ビジネスを考えるうえで興味深い。

動画を視聴することと、チケットを購入して会場へ足を運ぶことでは、ファンに求められる行動が違うからだ。無料で音楽を楽しむ人もいれば、好きなアーティストであっても日程や費用、会場までの距離などの事情からライブへの参加を見送る人もいる。

また、動画の再生回数は同じ人による複数回の視聴も含むため、再生回数をそのままファンの実人数とみなすことはできない。

一方で、再生回数が多いからといって、実際の音楽的な支持が薄いと判断することもできない。楽曲を繰り返し聴く人、特定の作品をきっかけに知った人、ライブに参加する人。それぞれの関心や楽しみ方は異なる。

つまり、再生回数とライブ動員の違いを指摘することと、アーティストの人気や音楽の価値を低く評価することは、分けて考える必要がある。

 


■幾田りらさんが北海道で歌ったことの意味


今回の路上ライブを考えるうえで、見落としたくないのが、幾田さん自身が現地へ足を運び、街の人々に直接歌を届けたという点だ。

アーティストにとって、ライブ会場で観客に歌を届けることと、街中で偶然出会った人々に歌を聴いてもらうことは、同じ音楽活動でも体験が異なる。

路上ライブでは、あらかじめチケットを購入したファンだけでなく、通りかかった人々も歌声に触れることができる。そこには、通常のコンサートとは違う出会いが生まれる可能性がある。

幾田さんには、路上で歌を届けてきた経験がある。大規模なステージで活動するようになった今も、街に出て自分の歌を直接届けることには、アーティストとしての表現の一つという意味があるだろう。

もちろん、本人が路上ライブを実施した理由のすべてを外部から断定することはできない。公演の告知につながる効果があった可能性も否定できないが、それだけを目的とした行動だったと決めつける根拠もない。

自分の目で北海道という場所を見て、その土地の空気を感じ、そこで暮らす人々に歌を届ける。そうした本人なりのやり方を、チケット販売のための宣伝活動という枠だけに押し込めてしまうのは、音楽の伝え方を狭く捉えることにならないだろうか。

 


■「ドームが埋まらない」という評価には数字の裏付けが必要


日刊SPA!の記事は、札幌公演のチケット販売状況を取り上げ、再生回数とのギャップに焦点を当てている。

ただし、公演の集客状況を正確に評価するには、販売状況を示す具体的な数字や、販売対象となる座席数、販売期間などを確認する必要がある。

チケット販売サイトで購入可能な席が表示されていたとしても、それだけで公演全体の販売状況や最終的な動員数を判断することはできない。販売中の席があることと、集客に失敗していることは同義ではないからだ。

また、現時点の販売状況が仮に当初の想定を下回っていたとしても、その理由がアーティストの人気や楽曲への支持にあるとは限らない。

公演日程や会場の規模、地域の需要、

チケット価格など、複数の要素を検討する必要がある。

したがって、「再生数は大きいのにドームが埋まらない」という見方を事実として成立させるには、見出しの印象だけでなく、それを裏付ける客観的なデータが欠かせない。

 


■アーティストの行動を結果だけで評価しない


音楽ビジネスにおいて、再生回数やチケット販売数は重要な指標だ。

大規模な公演を開催する以上、

主催者やアーティスト側が集客を意識するのも自然なことである。

しかし、音楽活動の価値は数字だけで決まるものではない。

街に出て歌うこと、目の前の人に声を届けること、これまで自分の音楽を知らなかった人と出会うこと。そうした初心を忘れない地道な積み重ねも、

アーティストが音楽を届ける方法の一つだ。

幾田さんの札幌での路上ライブを、チケット販売への懸念だけから評価するのではなく、本人が現地へ足を運び、自分の歌を直接届けようとした行動は勇気ある決断だ。

再生回数とライブ動員の関係を検証することには意味がある。

だが、その分析と、アーティストが自ら選んだ表現方法への評価は別の問題だと感じる。