マライア・キャリーが実兄との名誉毀損訴訟で勝訴 マイケル・ジャクソンさんにも重なる「骨肉の争い」…巨額の資産と名声が家族関係に落とす影

2026.10.22

 

世界的なスターとして莫大な富と名声を築いても、家族との関係まですべてが円満に保たれるとは限らない。歌姫マライア・キャリーさんが実兄モーガン・キャリー氏から起こされていた名誉毀損訴訟で、米ニューヨーク州の裁判所が兄側の請求を退けた。約5年に及んだ法廷闘争はマライアさん側の勝訴という結果になったが、兄側は上訴する意向を示している。

親族間の対立は、相続や遺産管理だけにとどまらない。自伝に何を書くのか、家族の過去をどこまで公にするのか、そして名声によって生まれた経済的価値を誰がどう扱うのか。マライアさんの訴訟と、マイケル・ジャクソンさんの遺産管理をめぐる問題には事情の違いがあるものの、家族という近しい関係だからこそ生じる難しさが浮かび上がる。


 

■自伝の記述をめぐり実兄が約30億円の損害を主張

発端となったのは、マライアさんが2020年に出版した自伝『The Meaning of Mariah Carey』だった。

同書の記述について、実兄のモーガン氏は、自身が暴力的な人物として描かれたほか、1980年代にコカインを販売していたかのような表現や、過去に刑事司法制度と関わったことを示唆する記述によって、名誉を傷つけられたと主張。

2021年に名誉毀損訴訟を起こし、損害額は2000万ドル(約30億円)を超えると訴えていた。

モーガン氏側は、マライアさんが一部の記述について亡き母親の話などをもとにしていたと指摘し、出版にあたって十分な事実確認を行わなかったと批判していた。

一方、マライアさん側は訴えに反論。裁判では当初、

複数の請求が退けられたものの、一部の記述をめぐる争いは継続していた。

そして2026年10月19日、ニューヨーク州最高裁判所のレスリー・A・ストロス判事は、モーガン氏がマライアさんの「現実的悪意」を立証できていないとして、残る請求を退けた。これにより、兄側の訴えは全面的に棄却された。

ただし、これは自伝のすべての記述が事実だと裁判所が認定したことを意味するわけではない。今回の判断の中心は、名誉毀損を成立させるために必要な法的要件を兄側が満たしたかどうかにある。

 

■勝敗を分けた「現実的悪意」とは何か

今回の判断で焦点となったのが、米国の名誉毀損訴訟で用いられる「現実的悪意(actual malice)」という法的基準だ。

ニューヨーク州の反SLAPP法などが関係する今回のケースでは、原告側は、問題となった表現が虚偽であることを被告が認識していた、あるいは真実かどうかを著しく軽視していたことを立証する必要があった。

判事は、兄妹の関係が悪化していたことや、マライアさんが兄に悪感情を抱いていたとする主張だけでは、この要件を満たさないと判断。モーガン氏側が、マライアさんが虚偽と知りながら記述した、あるいは真実性を著しく軽視したことを示す十分な証拠を提示できなかったとした。

マライアさんの代理人弁護士は、判決を歓迎。自伝が公共の利益に関わる問題を扱っていると裁判所が認めたことに満足していると述べ、公共性のあるテーマについて発言する作家には幅広い保護が必要だとの考えを示した。

これに対し、モーガン氏側の弁護士は判決に異議を唱え、上訴する方針を表明している。したがって、今回の勝訴によって兄妹間の法的対立が完全に終結したとまではいえない。

 

■マイケル・ジャクソンさんの遺産でも続く、管理と透明性をめぐる対立

親族間の争いという点で想起されるのが、

2009年に亡くなったマイケル・ジャクソンさんの遺産をめぐる問題だ。

マイケルさんの死後、遺産は音楽作品や関連権利、商業利用などを通じて大きな経済的価値を持つようになった。その管理を担う執行者と、遺産の受益者である子どもたちとの間では、資金の使途や管理のあり方をめぐって意見の対立が表面化している。

2026年5月には、マイケルさんの娘パリス・ジャクソンさんが問題視していた、遺産に関わる法律事務所への計62万5000ドルの追加報酬について、裁判所が返還を命じたと報じられた。パリスさん側は支払いの正当性や説明の十分さを問題にしていた。

さらに同年7月には、パリスさんが遺産の管理側に対し、法的費用や家族への贈与などをめぐって資金の返還を求めたと報じられている。

こうした問題の核心にあるのは、単純な親族間の感情的対立だけではない。

巨額の資産を誰が管理し、どのような基準で支出を認め、

受益者に対してどこまで説明責任を果たすのかという、

財産管理とガバナンスの問題でもある。

もちろん、マライアさんの訴訟は自伝の記述をめぐる名誉毀損問題であり、マイケルさんの遺産をめぐる対立とは法的な性質が異なる。それでも、著名人が築いた財産や作品が本人の手を離れた後、家族や関係者の間で権利と責任の線引きが難しくなるという共通点は見逃せない。

 

■富と名声が生み出す「家族だからこそ」の難しさ

芸能界では、スター本人の成功が家族の生活や経済状況にも大きな影響を及ぼすことがある。収入、住居、仕事の機会、資産の管理、作品から生まれる権利収入など、家族を取り巻く環境は本人の成功とともに変化していく。

その過程で、支援を受ける側と支援する側、財産を管理する側と利益を受ける側の間に、認識の違いが生じる可能性もある。本人にとっては当然の判断でも、親族にとっては不公平に映ることがある。反対に、家族を守るための判断が、外部からは説明不足や不透明な運用と受け取られる場合もある。

さらに、自伝やインタビューで過去を語ることは、本人にとって人生を振り返る行為である一方、記述された家族にとっては、自身の評判や社会的信用に直結する問題となり得る。今回のマライアさんの訴訟は、個人の表現の自由と、他者の名誉を守る権利が衝突する難しさを示した事例でもある。

こうした争いを、単に「金銭への執着」や「家族の不仲」だけで説明することはできない。資産の規模が大きくなれば、管理責任や権利関係も複雑になる。そこに過去の人間関係や、外部からは見えにくい事情が重なれば、対立が長期化することもある。

 

■「骨肉の争い」はスターの成功だけでは解決しない

マライアさんは世界的な歌姫として音楽史に名を刻み、マイケルさんは没後も作品や権利が大きな価値を持ち続ける存在だ。しかし、社会的な成功や経済的な豊かさが、そのまま家族関係の安定につながるわけではない。

むしろ、本人が築いた名声や財産が大きいほど、作品の権利、資金の管理、家族への支援、過去を語る権利など、関係者が向き合う問題も増えていく。

今回のマライアさんの勝訴は、兄側が名誉毀損を成立させるための法的要件を満たせなかったという判断だ。一方、マイケルさんの遺産をめぐる問題は、財産管理の透明性や説明責任が問われる側面を持つ。両者を同じ事件として扱うことはできないが、家族という関係だけでは、財産や権利をめぐる利害の衝突を解消できない現実は共通している。

「骨肉の争い」は、決して一部のスターだけに起きる特別な現象ではない。家族への期待、長年積み重なった感情、経済的な利害が複雑に絡み合えば、どれほど大きな成功を収めた人物であっても、簡単には解決できない問題に直面することがある。

華やかなステージの裏側で続く親族間の対立は、富や名声だけでは人間関係を守れないという現実を浮き彫りにした。