村瀬心椛選手「最後の一跳び」で歴史が動いた 金メダルが示した“心の強さ”
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「夢を見ているんじゃないかと思った・・・」—。
ミラノ・コルティナ五輪、スノーボード女子ビッグエアー決勝を終えた村瀬心椛(21)は、そう言葉を絞り出した。
だが、この金メダルは偶然でも奇跡でもない。
女子スノーボードの歴史を一段引き上げた、必然の一跳びだった。
▪️暫定2位からの大逆転
勝負を決めたのは、最後の3本目だった。
1回目、村瀬選手は1440度(4回転)の大技を鮮やかに成功させ、89.75点をマーク。
2回目は回転数を抑えた構成でまとめ、暫定2位のまま最終ジャンプを迎えた。
求められたのは「完璧」だった。
村瀬選手が選択したのは、攻めのフロントサイド・トリプルコーク1440。
斜め軸で回転するこの技は、現時点の女子スノーボード界でも成功率が極めて低い超高難度技だ。
迷いなく踏み切ると、空中で美しい放物線を描き、そのまま着地まで決め切った。
スコアは89.25点のハイスコア。
この一跳びで順位は一気に入れ替わり、金メダルが確定した。
スコアボードの電光掲示板の表示で確定の瞬間に崩れ落ち、涙を流す村瀬選手。
日本女子スノーボード史上初となる五輪ビッグエア金メダル。
さらに、2大会連続表彰台という前人未到の記録が刻まれた瞬間だった。
▪️「諦めなかった」では語り尽くせない強さ
試合後、村瀬選手は「最後はもう……やるしかなかった」と振り返った。
だが、この言葉を単なる精神論として片付けるのは本質を見誤る。
北京五輪で銅メダルを獲得して以降、村瀬選手は世界のトップ選手たちから“追われる存在”になった。
技の難度、完成度、成功率—女子ビッグエアの基準は、彼女自身によって引き上げられていった。
同じ跳びを続けるだけでは勝てない。
それでも村瀬選手は、安易に難度を下げる選択をしなかった。
オフシーズンには国内の練習拠点で誰よりも4回転技に挑み、
完成度を徹底的に磨き続けてきた。
勢いに任せた勝負ではない。
「勝つために必要な技」を冷静に見極め、最後の一跳びにすべてを託した。
この金メダルは、日々の積み重ねと成長過程を見据えた計算、そして覚悟がもたらした結果だった。
▪️日本女子の層の厚さを示した大会
今大会は、村瀬選手一人の舞台ではなかった。
初出場の鈴木萌々(18)は6位入賞。深田茉莉ん(19)も9位に入り、将来性を強く印象づけた。
3大会連続出場となった岩渕麗楽(24)は表彰台を逃したものの、村瀬選手同様に最後まで挑戦を貫く姿勢は、日本女子スノーボードの“現在地”を象徴していた。
かつて「一人のエース」に頼っていた日本女子スノーボードは、今や複数の選手が世界の頂点を争える段階に入っている。
さらに男子でも、予選30人の中から決勝へ進んだ日本人エントリー4選手が全員ファイナルに進出。
男女ともに4人がメダル争いに絡むという、層の厚さを示す五輪大会となった。
▪️男女アベックVが示す成熟
男子ビッグエアでは、木村葵来(きら)が金メダル、木俣椋真が銀メダルを獲得。
男女そろって頂点に立つ結果は、日本スノーボード界全体の成熟を如実に物語っている。
村瀬選手自身も「男子の活躍を見て、自分も頑張らないとと思った」と語った。
互いに刺激し合う関係が、競技レベルをさらに押し上げている。
「銅も重かったけど、金は違う重みがある」
その言葉が示すのは、達成感だけではない。
女子では誰も手にしたことのなかった金メダル。
その重さは、これから背負う期待の重さでもある。
だが、最後の一跳びで見せた冷静さと胆力があれば、その重圧を力に変える準備は整っている。
次なる舞台、スロープスタイルでのメダル獲得へ—
村瀬心椛選手の挑戦は、すでに次章へと進んでいる。


