【陸上】田中希実選手“前人未踏”の6連覇も「満足ではない」 世界陸上へ挑む覚悟と進化の足跡
【陸上】田中希実選手“前人未踏”の6連覇も「満足ではない」 世界陸上へ挑む覚悟と進化の足跡
6日、東京・国立競技場で行われた陸上・日本選手権の女子1500メートル決勝。田中希実(25=ニューバランス)が4分04秒16で優勝を果たし、大会史上初となる同種目6連覇を成し遂げた。
だが、表彰台に立つ彼女の表情に誇らしさはあっても、満足の色はなかった。
「6連覇くらいでは、『おぉー』とはならない。もっとアッと言わせるような走りをしたい」。常勝を義務づけられたトップランナーが、なおも先を見据える。
田中は今大会で、すでに5000メートルも制覇。
この日で4年連続の1500メートル&5000メートルの2冠を達成し、9月に東京で開催される世界選手権の代表に両種目で内定。だが、その歩みは決して順風満帆ではなかった。
昨年のパリ五輪では、得意とする1500メートル、5000メートルともに決勝進出を逃した。悔しさを胸に、今季はシーズン序盤から海外を転戦。1月から21レースに出場し、グランドスラム・トラックにも日本勢で唯一参戦するなど、地力の強化に努めてきた。5月のセイコーゴールデンGPでは、自らが出場する1500メートルの前に、3000メートルのペースメーカーを務めるという異例の挑戦も。彼女の中には「結果を出すために必要なすべてをこなす」という強い信念が宿っている。
「今季もまだ去年のことを引きずっていて怖さもある。でも、それを払拭したい。今回の日本選手権のように、応援を力に変えて、生き生きとした走りができれば」と語るように、田中はまだ過去と向き合いながら走っている。しかし、その視線は確実に世界へと向いている。
4日の5000メートルでは参加標準記録(14分50秒00)を突破し、大会新記録となる14分59秒04で4連覇。5日の1500メートル予選では全体トップで決勝へ。酷暑の中で3日連続レースを戦い抜くタフネスも見せた。「暑さは走ってる最中は気にならない。きついけど、それを乗り越えてこそ勝利と言える」。まさに“我慢と研鑽”を重ねた末の王者だった。
1500メートルでは、自らと並ぶ5連覇を果たしていた吉川美香の記録を塗り替え、前人未踏の6連覇。その足跡は記録にも記憶にも刻まれる偉業だが、田中にとっては通過点にすぎない。