ヘビー級最強の「危うさ」と「凄み」 ウシクが元キック世界王者を11回TKO それでも揺るがぬ“PFP論争”

2026.5.24
【from Oleksandr Usyk official Instagram 】

最強と呼ばれる王者にも、崩れかける瞬間はある。

だが、本当に恐ろしい王者とは、そこから試合をひっくり返してしまう男のことを言うのかもしれない。ボクシングのWBA・WBC・IBF世界ヘビー級統一王者、オレクサンドル・ウシクが24日、エジプト・ギザで元キックボクシング世界王者のリコ・バーホーベンと対戦。苦戦を強いられながらも、11回TKOで逆転勝利を収めた。


 

戦前の予想は、ウシク優位に傾いていた。

クルーザー級を制圧し、さらにヘビー級でも4団体統一を成し遂げた技巧派サウスポーに対し、バーホーベン選手はボクシングでは“異業種参戦”とも言える存在だったからだ。

しかし、実際のリングはまったく異なる景色を映し出した。

序盤からバーホーベン選手は、キック時代に培った間合い感覚と圧力を武器に前進。ウシク選手は得意のフットワークと角度をなかなか機能させられず、ジャブの主導権も握れない。ヘビー級では珍しいほどの運動量を誇る王者が、ロープ際へ押し込まれる場面すらあった。

近年のウシク選手は、“技巧で巨漢を制するヘビー級革命児”として語られてきた。

だが、この日はその完成されたイメージが揺らいだ。

37歳となった王者の年齢的衰えを指摘する声が出ても不思議ではない内容だった。

それでも、試合を決定づけたのは、やはり王者の経験値と修正能力だった。

11回、ウシク選手は一瞬の隙を逃さず鋭いアッパーをヒット。

ここまで積み重ねてきたボディーワークと細かな削りが、一気に臨界点へ達した。ダウンを奪うと、そのまま怒涛の連打で猛攻。

防戦一方となったバーホーベン選手を見たレフェリーが試合を止めた。

“判定まで耐え抜く”空気が漂っていた挑戦者を、一気に飲み込んだ王者の終盤ラッシュ。まさにヘビー級王者の底力だった。

ウシク選手はこれでプロ25戦25勝(16KO)。

2024年には史上初となるヘビー級4団体統一を達成し、現在もボクシング界の中心に立ち続けている。

そして、議論は再び「誰が世界最高のボクサーなのか」に向かう。

米老舗専門誌『ザ・リング』のパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでは、井上尚弥選手とウシク選手が長らく頂点を争ってきている。

階級もスタイルも異なる両者だが、“技術で支配する王者”という共通点を持つ。

今回の苦戦は、PFP論争においてマイナス材料として語られるかもしれない。

だが一方で、「苦しい試合を最後に倒し切る能力」こそ、

真の王者の証明だったともいえる。


【文:高須基一朗】