ミラノ五輪=大けがと恐怖を越えて・・・丸山希選手の銅メダルが示した「メダル以上の価値」

2026.2.8

【©️JOC】

ミラノ・コルティナ五輪、ノルディックスキー・ジャンプ女子個人ノーマルヒル。
日本選手団に最初のメダルをもたらしたのは、新エース・丸山希選手だった。

だが、その瞬間に会場で起きていた光景は、単なる「銅メダル獲得」という結果だけでは語りきれない。

2本目のジャンプを終えた丸山選手に、真っ先に駆け寄ったのは、供にこのジャンプ競技を競い合ってきた仲間でありライバルの日本代表の高梨沙羅選手と伊藤有希選手だった。

跳びはね、抱き合い、まるで自分のことのように喜ぶ―その姿は、競技スポーツの厳しさと、その先にある「共有された時間」の重みを物語っていた。


 

▪️新エース誕生の裏にあった「空白の五輪」

丸山選手は1本目97メートルで3位につけると、2本目に100メートルの大ジャンプを決め、合計261・8点で銅メダルを獲得。日本女子ジャンプとしては、2018年平昌五輪の高梨選手以来、2大会ぶりの表彰台だった。

だが、この舞台に立つまでの道のりは、決して順風満帆ではない。
2021年の全日本選手権。着地で転倒し、左膝前十字靱帯を損傷する大けがを負った。北京五輪を4カ月後に控えたタイミングでの負傷は、五輪出場の夢そのものを断ち切る結果となった。

懸命なリハビリで翌シーズンには復帰したものの、恐怖心は簡単には消えない。K点を越えるジャンプで着地に耐えきれず、しゃがみ込む場面もあった。それでも丸山は、ゲートを上げて飛距離を出す練習から逃げなかった。「ゼロからのスタートだった4年間」を、自らに課し続けた。

 

▪️「競技を楽しめている」場所に、ようやく辿り着いた

「苦しい時間もあったけど、今は競技を楽しめている」。
丸山が語った言葉は、単なる結果報告ではない。ジャンプが“怖いもの”から“向き合えるもの”へと変わった、その到達点が、この銅メダルだった。

そして、その過程を誰よりも近くで見てきたのが、高梨沙羅選手と伊藤有希選手である。ともに五輪の表彰台を経験し、同時に、結果が出ない時間の残酷さも知る存在だ。

高梨選手は語る。
「希ちゃんが銅メダルを取る姿を間近で見られて、すごく幸せな気持ちになれた。メダルって、取った本人だけじゃなくて、周りの人も幸せにする力がある」

自身が平昌五輪で銅メダルを獲得した経験と重ねながら、高梨選手は「時間を共有すること」の意味を強調した。

4年間、あるいはそれ以上の時間をともに積み重ねる中で、1人の選手の結果が、チーム全体のモチベーションへと変わっていく―それが、五輪という舞台の持つ特別な力だという。

伊藤選手もまた、「4年前は怪我でつらい思いをしていた。その想いが報われた」と、薄っすらと目尻が熱くなるシーンを見せた。

 

▪️メダルが示したのは、勝敗以上の「物語」

この日の銅メダルは、順位表以上の意味を持つ。
大けが、五輪不出場、恐怖心との対峙。そのすべてを経た末に、丸山希は“新エース”として日本女子ジャンプの現在地を示した。

そして同時に、仲間たちが駆け寄り、抱き合い、喜びを分かち合った光景は、トップアスリートが背負う孤独と、それを支える関係性を可視化した瞬間でもあった。