米国ジャクソン製グローブに品質疑問符「これはダメだ」大橋会長が即座に異議

2025.12.17

異様な硬さにWBO立会人も動いた“異例の交換指令”世界戦直前で露呈した用具管理の盲点

プロボクシングのトリプル世界戦(17日・両国国技館)を前に、

リング外で看過できない問題が浮上した。

16日に行われた前日計量後のグローブチェックで、WBO世界フライ級王者アンソニー・オラスクアガ(26=米国)が使用を申請した米国ジャクソン製グローブに、

深刻な品質上の疑念が持ち上がったのだ。


 

問題のグローブを手に取った大橋ジムの大橋秀行会長(60)は、その場で顔色を変えた。
「このグローブはダメだよ」

拳部分は、通常求められるクッション性がほとんど感じられず、

まるでプラスチック、あるいは鋼鉄のような異常な硬さ。

パンチの衝撃を吸収する“あんこ”の役割を果たしておらず、

これで殴られればダメージ増幅や、目元などの裂傷を誘発しかねない危険な状態だった。

この訴えを受け、WBOの立会人レオン・パノンシロ氏が現物を確認。

結果、クレームは正当と判断され、試合直前にもかかわらず

グローブの交換が命じられるという異例の事態となった。

最終的に、オラスクアガはメキシコの老舗レイジェス製、

挑戦者・桑原拓(30=大橋)は日本のウイニング製を使用することで決着した。

 

■本来あり得ない「グローブチェックでの交換」

世界戦においてグローブは、単なる用具ではない。安全性、公平性、試合結果そのものに直結する最重要要素だ。
2000年代初頭までは、世界戦では両選手が同一メーカーのグローブを使用することが原則だった。しかし、スポンサー契約の多様化によりルールは緩和され、現在は規格を満たし、かつ双方陣営が合意すれば異なるメーカーの使用が可能となっている。

だからこそ、前日計量後のグローブチェックは厳格に行われる。通常は同一メーカーの新品グローブが2組用意され、感触やクッションの差を確認した上で選択。

JBCが試合当日まで厳重に封印・保管する。

その段階で「使用不可」と判断され、交換にまで至るのは

極めて異例であり、今回のケースがいかに異常だったかを物語っている。

 


【新商品のジャクソン・ボクシンググローブ(参考画像)】

 

■急成長メーカー「ジャクソン」に残る品質の不安定さ

問題となったジャクソン製グローブは、派手なデザインと新興ブランドらしい攻撃的なマーケティングで、近年アメリカを中心に急速に広まっている。実際、オラスクアガは今年3月の京口紘人戦でも同社のグローブを使用していた。

 

ただし、新興メーカーゆえに製品ごとの品質のばらつきが指摘されてきたのも事実だ。京口戦で使用されたものは、今回ほどの異常な硬さは確認されず、当時は対戦陣営からも問題提起はなかった。しかし、京口が試合中にカットを負った点を含め、「グローブの影響ではないか」との声が一部関係者の間で残っていた。

今回のように、同一メーカーでありながら“別物”と言えるほど感触が違う製品が世界戦に持ち込まれたこと自体、品質管理体制への疑念を深める結果となった。

 

■「硬さ」が生む危険性 安全と興行の狭間で

あるボクシング関係者は、こう指摘する。
「ナックル部分があれほど硬いと、倒すパンチにならなくても、カットを誘発しやすい。流血によるストップや早期決着を狙う意図が疑われても仕方ない」

真意は定かではない。しかし、選手の安全を脅かす可能性のある用具が、規格をすり抜けて世界戦の舞台に上がろうとしていた事実は重い。

結果的に、大橋会長の即断とWBO立会人の判断によって最悪の事態は回避された。

だが、これは同時に、急成長する新興メーカーと、用具チェック体制の限界を浮き彫りにした出来事でもある。