ONEのチャトリCEO、武尊選手の「引退宣言」に待った
歴代レジェンドの背中を見届けてきた指揮官が語る“続けてほしい理由”

【©️ONE Championship 】
11月16日に東京・有明アリーナで開催された
ONE 173で武尊選手(team Vasileus)が
2R KOの圧巻勝利を収めた。
鋭いパンチで1Rに二度のダウンを奪い、
2Rにはカーフを効かせながら右フックで仕留める―
K-1全盛期を思わせる、完全復活とも言える内容だった。
しかし試合直後のリング上でマイクを握った武尊選手は、
そんな輝きを放った直後に「次の試合で現役を引退します」と衝撃宣言。
希望相手としてロッタン選手の名を挙げ、
ロッタン本人もリングに登場してフェイスオフが実現した。
ところが、試合後の会見で隣に座った
ONE Championshipのチャトリ・シットヨートンCEOは、
この引退宣言に“待った”をかけた。
「No, no, no…勝ったら引退はダメよ!ロッタン戦に勝ったら、ロッタンvs武尊3をやらなきゃいけないでしょ!」
この言葉に会場はざわめいた。
武尊選手は笑顔で「勝ったら考えます」と控えめに返したが、そこに込められたニュアンスは軽くない。チャトリCEOは、これまで多くのレジェンドたちの引退に立ち会い、その舞台裏も、その孤独も、その葛藤も見てきた人物だ。
だからこそ“まだ武尊は終わっていない”と確信を持った目を見せていた。
■チャトリCEOが見せた「格闘技愛」と「選手愛」
SNSでは、武尊選手の試合が始まった瞬間にチャトリCEOが最前列を超えて食い入るように観戦する姿が出回り、大きな話題に。
“ビジネスとしての代表者”ではなく、ひとりの格闘技ファンとして、そして長年トップ選手と向き合ってきたプロモーターとして―武尊選手の一挙手一投足を見逃すまいとする眼差しだった。
ファンからは
「この引き留めは熱い」「最高のシナリオを提示してくれている」
「まだ武尊は頂点を狙える」「チャトリの愛が深すぎる」
と礼賛の声が相次ぐ。一方で、
「これまでのキャリアを考えると引退を尊重してあげてほしい」
「次がラストと決めた武尊を静かに送り出すべき」
という意見も少なくない。
賛否が割れるのは、武尊選手が再びファンの前で“完全体”を見せたからこそ。」そして、その姿を誰よりも強く感じ取ったのが、チャトリCEOだったのだろう。
■「今回が最後のピークを作れる」武尊の決断
武尊選手は引退理由について、淡々と、しかし誠実にこう語っている。
「今回、練習方法やコンディショニングの作り方がうまくハマった。次の試合が、過去最強の武尊を作れる最後の一回だと思って決めました」
その言葉には、過酷な競技人生を歩んできた者にしか分からない“身体の限界の手応え”がにじむ。それでもKO勝利という最高のパフォーマンスを見せてしまうのが、武尊の残酷な才能だ。
■ロッタンとの再戦、その先を見据えるチャトリ
チャトリCEOの「引退ダメよ」発言は、単なる興行的な希望ではない。
長年、レジェンドたちの最期を見届けてきた人物として、“本当に終わるべきタイミング”を知っているがゆえの言葉だ。
ロッタン戦は引退試合としてふさわしいクライマックスになり得る。
だが、もし武尊選手が勝つようなら―そこから先に広がる“物語”をチャトリは確信しているのだろう。
武尊選手の、今後の人生と未来を決めるのは本人だ。
ONEで戦い続けることは決して容易なことではない。
1試合、1試合、世界最高峰のトップ選手と渡り合う戦いは、命の削りあいであることは間違い無いからだ。
しかし、その背中を押す言葉を口にできるのは、格闘技を愛し、選手を愛し、彼らの人生を真正面から支えてきたチャトリCEOだけとも言える。
そして、格闘技とボクシングのビックイベントが、週替わりで
日本開催が続ける状況を踏まえて考えと、2026年4月開催が濃厚かと思われる。
5ヶ月後、どのような物語が控えているのか・・・すでに次の展開が楽しみでならない。
【文:高須基一朗】
