那須川天心選手の“誇りある戦い”に冷静な配慮を─WBCの拙速決定に疑問、揺るがぬ人気・求心力が浮き彫りに
世界ボクシング評議会(WBC)は3日、タイ・バンコクで開催中の年次総会で、バンタム級1位・那須川天心(27=帝拳)と、同級3位で元2階級制覇王者のフアン・フランシスコ・エストラダ(35=メキシコ)に対し、王座挑戦者決定戦を行うよう指令を発表した。
世界的ボクシング専門メディア「Fight news」などが報じたこの一報は、瞬く間に大きな波紋を呼んでいる。
なぜなら、その舞台に指名された那須川天心という男は、いま“再起の真っただ中”にいるからだ。
■わずか8戦目で井上拓真と激突した挑戦的ファイター
那須川選手は11月24日のWBA王座決定戦で元同級王者・井上拓真(29=大橋)と拳を交え、プロ8戦目で初黒星を喫した。
しかし、この敗戦は決して評価を下げるものではない。強敵に臆せず挑み続ける姿勢こそ天心の真価であり、多くのファンや関係者が「ここからさらに強くなる」と確信した試合だった。
本来なら、心身を整え、次なる戦いへ向けた準備期間が必要とされるタイミングだ。
■相手は“階級超えのレジェンド”…それでも天心は主役
今回対戦候補に挙がったエストラダは、スーパーフライ級で長く世界の頂点に立ち続けたレジェンド。バンタム級転向直後とはいえ、経験と格では世界屈指の存在だ。
そんな大物を相手に、真っ先に名前が挙がるのが那須川天心。
それだけで、彼が世界に与えたインパクトの大きさが分かる。
■説明なく“突然の通達” それでも注目が天心に集まる理由
しかし、WBCはこの重大決定を那須川サイドへ十分な説明もなく、唐突に通達したとされている。
専門家からも「拙速」「説明責任を果たしていない」と批判が寄せられるのは当然だ。
SNSで天心選手が「荷が重い」「なんで優遇?」とつぶやいたのは、決して弱気からではなく、
「選手として誠実でありたい」という彼の真摯な姿勢の表れだ。
彼は常に、準備を怠らず、試合の一つひとつと真剣に向き合ってきた。
だからこそ、曖昧な状況での決定に慎重になるのは自然なことだ。
■キック時代から変わらぬ“求心力”世界がめている実情
今回の迅速すぎる指名は、裏を返せばWBCが「最も注目を集める存在は誰か」を理解している、ということでもある。
キックボクシングで築いた圧倒的な実績、ボクシング転向後の急速な成長、そしてスター性。
那須川天心という名前は、いまやボクシング界の“起爆剤”として世界に認知されている。
興行的価値だけでは語れない。
天心がリングに立つだけで、競技全体が動き出す─その存在感は唯一無二だ。
■“世界最速クラス”でタイトルも視野に
今回の指令は突然だった。
だが、もしこの戦いを受け、勝利を掴んだならば・・・。
那須川天心選手は最短・最速のスピードで世界タイトルに到達する。
これは大きなリスクであり、同時に最大のチャンスでもある。
井上拓真戦からわずか10日余り。
敗戦直後の選手に十分な説明なく重大決定を通知するWBCの姿勢には、
改善すべき点が多い。
だが、それでも最も注目を浴びるのは那須川天心選手だ。
彼がこの“唐突な指令”にどう向き合うのか。
【文:高須基一朗】

