NBAレイカーズ売却、NBA史上最高額の「100億ドル」に潜む実収益の課題 ブランド価値だけが先行か

2025.10.31

米プロバスケットボール協会(NBA)の理事会は30日、

ロサンゼルス・レイカーズの売却を正式に承認した。

売却額は100億ドル(約1兆5400億円)に達し、

北米スポーツチームとしては史上最高額の取引となる。

しかし、その巨額取引の裏側には、実際の収益構造との乖離や、

今後の経営リスクが横たわっている。

 

▪️実際の収益力は評価額に遠く及ばず

今回、チームの過半数株を取得するのは、マーク・ウォルター氏。米大リーグ(MLB)のロサンゼルス・ドジャースやサッカーのチェルシーFCを傘下に持つ実業家で、これまでレイカーズの少数株主でもあった。

ウォルター氏が提示した100億ドルという評価額は、レイカーズの年間営業利益(EBITDA)約2億ドル前後と比べておよそ50倍に相当する。単純な収益性で見れば、実際の利益水準は投資額を正当化する水準には達しておらず、今回の取引は「収益実態」ではなく、「NBAブランド全体の将来価値」に依存した取引といえる。

 

▪️ファミリー経営から投資主導へ!経営方針の転換点

1979年にカリスマ経営者ジェリー・バス氏が球団を買収して以来、レイカーズはバス家によるファミリー経営を続けてきた。バス氏はスポーツとエンターテインメントを融合させ、マジック・ジョンソンやコービー・ブライアントらを軸に球団をNBA屈指のブランドへと成長させた。

しかし今回の売却により、球団経営は投資ファンド的な手法へと転換する見込みだ。近年のNBAチームは、放映権収入やスポンサー契約に依存する構造が強まり、地域放映権の収益が伸び悩む中で、チーム経営はより短期的な資本回収を重視する傾向が強まっている。レイカーズの場合も、ロサンゼルス地域でのテレビ放映契約が収益の約35%を占めており、契約更新時に減額が生じた場合、収益構造が一気に不安定化する可能性がある。

 

▪️評価額の“バブル化”とNBAの収益再編

米スポーツ経済学の専門家からは、今回の売却を「スポーツフランチャイズのバブル的評価」の象徴と見る声もある。欧米では、富裕層や投資ファンドがスポーツチームを資産運用の一環として保有する例が増えており、実際の利益に対して20倍を超える倍率で取引が成立するケースが続出している。

NBA自体は今後、新たなグローバル放映権契約の締結を控えており、リーグ全体の放映収益が拡大すれば、今回の評価額を裏付ける可能性もある。しかし現時点では、評価額が実態を大きく上回っていることは否めない。今回の取引が長期的な経営安定につながるのか、それとも“評価額先行”によるリスクを拡大させるのかは不透明だ。

 

▪️現在のオーナーであるジーニー・バス氏は5年間留任 移行期の舵取りに注目

NBAによると、現オーナーのジーニー・バス氏は今後も少なくとも5年間、球団代表として残留する。だが、ファミリー経営と投資主導の経営スタイルの共存は容易ではない。経営判断の優先順位が「チームの伝統」から「資本効率」に移る中で、現場との温度差が顕在化する可能性もある。

今回のレイカーズ売却は、スポーツチームを「事業」ではなく「金融資産」として評価する動きが極端に進んだ象徴的な事例といえる。

実際の営業利益は限定的でありながら、ブランド価値と将来期待によって巨額の資金が動く構造には、持続性への懸念もつきまとう。

もちろん日本の八村塁選手の日本での市場価値も、ここに大きく影響を与えていることは間違い無いだろう。
NBA全体の放映権ビジネスや国際展開が成功すれば、今回の取引は“先見的投資”として評価されるだろう。

だが、もし市場拡大が鈍化(=人気低迷)すれば、レイカーズの「100億ドル」は“過大評価の象徴”として歴史に残る可能性もある。

【文:高須基一朗】