WBC なぜ「地上波」から姿を消したのか!? 放映権ビジネスの転換点に立つ日本のスポーツ中継

2025.12.27

野球の世界一決定戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」が、来春の大会で日本国内において米動画配信大手ネットフリックスによる独占配信となる。前回大会で決勝が世帯視聴率40%超を記録した国民的イベントが、地上波テレビから姿を消す――。この出来事は「異常事態」として語られがちだが、実態は日本のスポーツ放映権ビジネスが大きな転換点を迎えた結果とも言える。


 

一方で、来年開幕するサッカーW杯北中米大会は、DAZNによる全試合配信に加え、日本代表戦を中心にNHKと民放各局での地上波放送が確保された。同じ「国民的スポーツイベント」で、なぜこれほど明暗が分かれたのか。

その鍵を握るのが「交渉構造の違い」だ。

サッカーW杯では、日本の広告代理店が窓口となり、配信と地上波を組み合わせた複層的な放映権モデルを構築してきた。競技普及や公共性を前提に、「無料で見られる環境」を守るという強い意志が、国際サッカー連盟(FIFA)との交渉に持ち込まれてきた。

対照的にWBCは、主催者であるMLB側とネットフリックスが直接契約する形を選択した。巨大資本を背景に、単独で高額な放映権料を提示できる配信プラットフォームにとって、地上波と権利を分け合う合理性は乏しい。

結果として、日本のテレビ局や広告代理店が関与する余地はほとんど残されなかった。

背景には、止まらない放映権料の高騰がある。

WBCは前回大会から大幅な上昇、サッカーW杯も数百億円規模とされる金額が動く。放映権料に加え、制作費や人件費を含めれば、テレビ局にとってスポーツ中継は「儲かるコンテンツ」ではなくなりつつある。

専門家は現状を「バブル」と表現する。だが同時に、それはテレビ局と国際スポーツ団体、配信事業者による“チキンレース”でもあるという。どこまでが許容範囲なのか、誰が最初にブレーキを踏むのか―そのせめぎ合いの中で、資金力に勝るグローバル配信企業が主導権を握り始めている。

さらに、日本特有の事情も重くのしかかる。

長引く経済停滞、円安による交渉力の低下。スポンサー市場が国内に限定される放映権ビジネスにおいて、日本のテレビ局が提示できる金額は、相対的に見劣りするようになった。

WBCの独占配信は、単なる「地上波の敗北」ではない。スポーツを「誰が」「どの形で」届けるのかという問いが、根本から揺さぶられているのである。無料視聴を前提としてきた日本のスポーツ文化は、今、大きな岐路に立たされている。