「銅」で笑った理由—高木美帆選手が背負う“9個目”の重み
【©️IOC】
ミラノのリンクに、静かな確信が広がった。
派手なガッツポーズではない。だが、確かに時代を刻む一歩だった。
ミラノ・コルティナ五輪スピードスケート女子500メートル。北京大会銀メダリストの高木美帆選手(31)が、今季自己ベストとなる37秒27で銅メダルを獲得した。1000メートルに続く今大会2つ目の表彰台。そして、これが五輪通算9個目のメダル。日本女子史上最多記録を自ら更新した。
だが、この銅には単なる「記録以上」の意味がある。
▪️「うまくいくとは思っていなかった」—本音が物語るもの
レースを終えてから約30分。最終組の滑りを見届けた高木選手は、結果が確定した瞬間、ヨハン・デビット・コーチの胸に飛び込んだ。
「うまくいくとは思っていなかった。素直にうれしい」
9日の1000メートルで同じ銅メダルを手にしたとき、彼女の表情は硬かった。
金を狙っていただけに、悔しさがにじんでいたからだ。だが今回は違う。
そもそも500メートルは“本職”ではない。
北京五輪以降、国際大会での出場はわずか13レース。今季に限ればワールドカップBクラスを1度滑ったのみ。補欠登録からの出場であり、直前までエントリーを迷っていた。
それでもリンクに立ったのは、覚悟があったからだ。
デビット・コーチの言葉は明快だった。
「走るならフルスピード。そうでなければ出ない」
迷いを断ち切るには十分だった。
▪️「流れがきている」 勝者の直感
持ちタイム順で15組中4番目。決して有利とは言えない位置だった。
だが、外側レーンは前回銀メダルを獲得した時と同じ配置。高木選手は小さく笑った。
「流れがきている」
100メートル通過は10秒40。北京大会より0秒01速い入り。
そこから一気に加速し、直線で伸び切った。
スプリンターではない。だが、スピードに乗せたときの伸びは世界屈指。
オールラウンダーの強みが凝縮された37秒27だった。
▪️年齢という“言い訳”を拒んだ31歳
今大会、日本チーム最年長の31歳。
練習後の回復に時間がかかるなど、身体の変化はある。それでも彼女は言う。
「悪くなっていく理由に、年齢を使おうとしていると考え直させられた」
コーチの「31歳はそんな年じゃない」という言葉が、甘えを許さなかった。
衰えではなく、進化を選ぶ。トップアスリートの思考は、常に未来形だ。
これで五輪通算は金2、銀4、銅3の計9個。
だが高木選手の視線は、過去ではなく“次”に向いている。
今大会は団体追い抜き、そして本命の1500メートルを残す。
1000メートル、500メートルと2戦連続銅。北京大会では銀が続いた後に金をつかんだ。
「2種目、金メダルを取りにいく」

