「銅」で笑った理由—高木美帆選手が背負う“9個目”の重み

2026.2.16

【©️IOC】

ミラノのリンクに、静かな確信が広がった。
派手なガッツポーズではない。だが、確かに時代を刻む一歩だった。

ミラノ・コルティナ五輪スピードスケート女子500メートル。北京大会銀メダリストの高木美帆選手(31)が、今季自己ベストとなる37秒27で銅メダルを獲得した。1000メートルに続く今大会2つ目の表彰台。そして、これが五輪通算9個目のメダル。日本女子史上最多記録を自ら更新した。

だが、この銅には単なる「記録以上」の意味がある。


 

▪️「うまくいくとは思っていなかった」—本音が物語るもの

レースを終えてから約30分。最終組の滑りを見届けた高木選手は、結果が確定した瞬間、ヨハン・デビット・コーチの胸に飛び込んだ。

「うまくいくとは思っていなかった。素直にうれしい」

9日の1000メートルで同じ銅メダルを手にしたとき、彼女の表情は硬かった。

金を狙っていただけに、悔しさがにじんでいたからだ。だが今回は違う。
そもそも500メートルは“本職”ではない。

北京五輪以降、国際大会での出場はわずか13レース。今季に限ればワールドカップBクラスを1度滑ったのみ。補欠登録からの出場であり、直前までエントリーを迷っていた。

それでもリンクに立ったのは、覚悟があったからだ。

デビット・コーチの言葉は明快だった。
「走るならフルスピード。そうでなければ出ない」

迷いを断ち切るには十分だった。

 

▪️「流れがきている」 勝者の直感

持ちタイム順で15組中4番目。決して有利とは言えない位置だった。

だが、外側レーンは前回銀メダルを獲得した時と同じ配置。高木選手は小さく笑った。

「流れがきている」

100メートル通過は10秒40。北京大会より0秒01速い入り。

そこから一気に加速し、直線で伸び切った。
スプリンターではない。だが、スピードに乗せたときの伸びは世界屈指。

オールラウンダーの強みが凝縮された37秒27だった。

 

▪️年齢という“言い訳”を拒んだ31歳

今大会、日本チーム最年長の31歳。
練習後の回復に時間がかかるなど、身体の変化はある。それでも彼女は言う。

「悪くなっていく理由に、年齢を使おうとしていると考え直させられた」

コーチの「31歳はそんな年じゃない」という言葉が、甘えを許さなかった。
衰えではなく、進化を選ぶ。トップアスリートの思考は、常に未来形だ。

これで五輪通算は金2、銀4、銅3の計9個。
だが高木選手の視線は、過去ではなく“次”に向いている。

今大会は団体追い抜き、そして本命の1500メートルを残す。
1000メートル、500メートルと2戦連続銅。北京大会では銀が続いた後に金をつかんだ。

「2種目、金メダルを取りにいく」