ダルビッシュ有選手を「戦力外」にしなかった侍ジャパン─WBC連覇に本気で挑む組織の意思決定

2026.1.28

【photo by Matias J Oconer/過去のWBC優勝時の画像】

「出場できない選手」を、チームに残す。
この判断に、侍ジャパンの現在地が凝縮されている。パドレスのダルビッシュ有選手(39)が、第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表のアドバイザーを務める。右肘手術後のリハビリ中で、選手としての出場は叶わない。

それでも首脳陣は、彼を“戦列”から外さなかった。

それは象徴的な人事ではない。
連覇を狙う組織が下した、極めて合理的な判断だ。


 

■「精神的支柱」という曖昧な言葉を超えて

スポーツの世界ではしばしば、「精神的支柱」という便利な言葉が使われる。
だが今回のダルビッシュ選手の起用は、その文脈には収まらない。

今大会で導入されるピッチクロック、ピッチコム、そしてWBC公式球。
NPBでは未経験の要素が並ぶなか、それらを日常として戦ってきた知見を、合宿段階から共有できる存在は限られている。

重要なのは、「すべてに対応する」ことではない。
短期決戦ではむしろ、何を気にし、何を切り捨てるかが勝敗を分ける。

その線引きを、理屈ではなく経験で語れる人材を、ベンチに置く。
これは感情論ではなく、リスク管理の問題だ。

 

■23年大会が示した「役割を受け入れる力」

前回のWBCで、ダルビッシュ選手は象徴的な存在だった。
メジャー通算297試合すべて先発というキャリアを持ちながら、中継ぎとしてもマウンドに立ち、決勝戦でも役割を全うした。

評価すべきは成績以上に、役割を再定義できる能力だろう。

組織において最も貴重なのは、能力の高さそのものよりも、
「いま何が求められているか」を理解し、受け入れる姿勢だ。

「戦争に行くわけじゃない」
極限の舞台でこの言葉を投げかけられる余裕は、修羅場をくぐってきた者にしか持てない。

今大会、各国はメジャーリーグのスター選手を本気で投入してくる。
対戦相手の分析はデータや映像でも可能だが、本当の怖さは現場の空気に宿る。

どの場面で流れが変わるのか。
どんなミスが致命傷になるのか。

それを“体感”として知る経験値豊富な人物が、ベンチにいるかどうか。
ダルビッシュ選手を外に置かなかった理由は、ここにある。

 

■松井秀喜氏、ダルビッシュ選手「世界一の基準」を持ち込むということ

宮崎合宿には松井秀喜氏も合流予定だ。
投と打、双方に「世界一の基準」を知る人材を置く布陣は、偶然ではない。

スターの存在がチームを強くするのではない。
基準が引き上げられたとき、組織は変わる。

侍ジャパンはすでに、「参加することに意味がある」段階を過ぎた。
問われているのは、どう勝つか、そして勝ち続けられるかだ。

それこそが、連覇を本気で狙う組織の条件である。