ドジャース総年俸658億円は“違法ではない”MLBぜいたく税(CBT)が示す米国式プロスポーツの現実

2025.12.20

【©️Los Angeles Dodgers 】

米大リーグ(MLB)機構は19日(日本時間20日)、

2025年シーズンの競争均衡税(CBT=Competitive Balance Tax)、

いわゆる「ぜいたく税」の最終算定額を発表した。
その中で、ロサンゼルス・ドジャースの

総年俸額が4億1734万ドル(約658億円)に達し、

リーグ全体で突出した存在となったことが明らかになった。


 

ドジャースは基準額とされる2億4100万ドル(約380億円)を大幅に超過。

結果として、1億6937万ドル(約267億円)という巨額のCBTを支払うことになる。

この「税金」だけで、MLB下位12球団の総年俸を上回る――。数字だけを見れば異常とも言える状況だが、これは米国のプロスポーツにおいて“違反”でも“反則”でもない。

■ MLBに「年俸上限」は存在しない

日本のプロ野球や、NFL・NBAに慣れたファンにとって誤解されやすいが、MLBにはサラリーキャップ(年俸総額の上限)という法的な制限は存在しない。

MLBの年俸制度は、

米国労働法に基づく

選手会(MLBPA)と球団側が結ぶ労使協定(CBA)

によって定められている。

その中で導入されているのがCBT制度だ。これは「上限を超えたら違法」ではなく、「超えた分に応じて税金を支払う」仕組みであり、あくまで経済的なブレーキにすぎない。

つまりドジャースは、

「罰を覚悟でルール違反をした」のではなく、
「ルールで認められたコストを支払って戦力を最大化した」

というのが正確な理解だ。

■ なぜ“ぜいたく税”があるのか

CBTの目的は、戦力格差の抑制と市場の健全化にある。
大都市球団が無制限に資金力を投入すれば、小規模市場の球団が太刀打ちできなくなる。そこでMLBは、

一定額を超えると高率の課税

常習的な超過球団ほど税率が上昇

ドラフト指名権の順位降格

といった段階的なペナルティを設けている。

今回、ドジャース、メッツ、ヤンキース、フィリーズ、ブルージェイズの5球団は、基準額超過によりドラフト指名権が10位分繰り下がる措置を受けた。

これは将来戦力に直接影響するため、CBTは単なる「金銭的罰則」ではない。

■ それでもドジャースは“支払う”選択をした

ドジャースには、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希といった国際的スターが名を連ねる。
興行面・ブランド価値・放映権収入を含めれば、短期的な税金負担を上回るリターンを見込めるという経営判断があったと見るのが自然だ。

実際、ドジャースが支払うCBT額だけで、カージナルス、ロッキーズ、レッズ、ブルワーズ、ツインズ、ナショナルズなど下位12球団の総年俸を超えている。この数字は、MLBが「完全な平等」を目指していないリーグであることを象徴している。

■ “不公平”ではなく“アメリカ的合理性”

CBT制度は、日本的な感覚では「不公平」に映るかもしれない。
しかし米国では、

金を使う自由も

その代償を払う義務も

同時に認めるという考え方が基本だ。

ドジャースの658億円は、規制逃れでも抜け道でもない。
米国法と労使協定が認めた、極めて合法的な“勝負の仕方”なのである。