ドジャース総年俸658億円は“違法ではない”MLBぜいたく税(CBT)が示す米国式プロスポーツの現実
【©️Los Angeles Dodgers 】
米大リーグ(MLB)機構は19日(日本時間20日)、
2025年シーズンの競争均衡税(CBT=Competitive Balance Tax)、
いわゆる「ぜいたく税」の最終算定額を発表した。
その中で、ロサンゼルス・ドジャースの
総年俸額が4億1734万ドル(約658億円)に達し、
リーグ全体で突出した存在となったことが明らかになった。
ドジャースは基準額とされる2億4100万ドル(約380億円)を大幅に超過。
結果として、1億6937万ドル(約267億円)という巨額のCBTを支払うことになる。
この「税金」だけで、MLB下位12球団の総年俸を上回る――。数字だけを見れば異常とも言える状況だが、これは米国のプロスポーツにおいて“違反”でも“反則”でもない。
■ MLBに「年俸上限」は存在しない
日本のプロ野球や、NFL・NBAに慣れたファンにとって誤解されやすいが、MLBにはサラリーキャップ(年俸総額の上限)という法的な制限は存在しない。
MLBの年俸制度は、
米国労働法に基づく
選手会(MLBPA)と球団側が結ぶ労使協定(CBA)
によって定められている。
その中で導入されているのがCBT制度だ。これは「上限を超えたら違法」ではなく、「超えた分に応じて税金を支払う」仕組みであり、あくまで経済的なブレーキにすぎない。
つまりドジャースは、
「罰を覚悟でルール違反をした」のではなく、
「ルールで認められたコストを支払って戦力を最大化した」
というのが正確な理解だ。
■ なぜ“ぜいたく税”があるのか
CBTの目的は、戦力格差の抑制と市場の健全化にある。
大都市球団が無制限に資金力を投入すれば、小規模市場の球団が太刀打ちできなくなる。そこでMLBは、
一定額を超えると高率の課税
常習的な超過球団ほど税率が上昇
ドラフト指名権の順位降格
といった段階的なペナルティを設けている。
今回、ドジャース、メッツ、ヤンキース、フィリーズ、ブルージェイズの5球団は、基準額超過によりドラフト指名権が10位分繰り下がる措置を受けた。
これは将来戦力に直接影響するため、CBTは単なる「金銭的罰則」ではない。
■ それでもドジャースは“支払う”選択をした
ドジャースには、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希といった国際的スターが名を連ねる。
興行面・ブランド価値・放映権収入を含めれば、短期的な税金負担を上回るリターンを見込めるという経営判断があったと見るのが自然だ。
実際、ドジャースが支払うCBT額だけで、カージナルス、ロッキーズ、レッズ、ブルワーズ、ツインズ、ナショナルズなど下位12球団の総年俸を超えている。この数字は、MLBが「完全な平等」を目指していないリーグであることを象徴している。
■ “不公平”ではなく“アメリカ的合理性”
CBT制度は、日本的な感覚では「不公平」に映るかもしれない。
しかし米国では、
金を使う自由も
その代償を払う義務も
同時に認めるという考え方が基本だ。
ドジャースの658億円は、規制逃れでも抜け道でもない。
米国法と労使協定が認めた、極めて合法的な“勝負の仕方”なのである。

