“ダゲスタン旋風”が吹き荒れる世界で─堀口恭司選手、孤高の日本武士がUFCで魅せた「一本の真価」
【©️UFC】
総合格闘技界は今、ひとつの血脈が支配している。
シェイドラエフ、ヌルマゴメドフに象徴される、
ロシア・コーカサス系の無類の強者たちがUFCを中心に階級を席巻し
圧倒的なシステムとして世界を驚嘆させてきた。
そんな中、日本の男が真っ向からその流れを断ち切った。
22日(日本時間23日)にドーハで行われたUFCファイトナイト・カタール。
9年ぶりのオクタゴン帰還となった堀口恭司選手(ATT)は、
フライ級11位でダゲスタン系譜のタギル・ウランベコフと対峙し、
3Rリアネイキッド・チョークによる一本勝ち。
“武士道”を体現するかのような勝ち方だった。
■“ダゲスタン式の壁”を突破した瞬間
世界中のファイターが研究し、なお突破できない―それがダゲスタン勢の圧力だ。
強靭な組み力、隙のないケージコントロール、そして精神力。
UFC王者の多くがその系譜をたどり、いまや一大流派と呼べる存在である。
しかし堀口選手は、その牙城を崩した。
1R、伝統派空手特有の間合いとステップでウランベコフを翻弄。低く鋭いカーフキックで確実にダメージを蓄積し、組みの圧力を中和した。
2Rにはテイクダウンも成功させ、試合の主導権を完全に掌握。
そして最終R、前半でカーフキックで下半身への蹴り技を警戒する展開の中で、右ハイキックという“空手の直線”の蹴りを活かしてクリーンヒット、ダゲスタン式の堅牢な守りを一撃で打ち抜いた。
倒れた相手に迷いなくパウンドで襲いかかり、鉄槌。バックマウント(背面)を奪っての深いチョーク。
ダゲスタン流レスリングを、己の技術でねじ伏せた瞬間だった。
トレンドは「#UFCQatar」「堀口恭司」が1位・2位を独占。
MMAファンだけでなく、一般層までもがこの一勝を“日本の快挙”として讃えた。
■「パントージャ、出てこい」UFCベルトへ一直線
試合後の堀口は、いつもの控えめな表情とは別人だった。
マイクを握ると、満面の笑みで「最高!」と叫び、そのまま王者アレッシャンドリ・パントージャを指名。
「チームメートでも関係ない。ぶっ飛ばす。
リスペクトはあるけど、試合はビジネスですから」
この言葉は、勝利の喜びというより、武士が宿敵に戦を申し込む“宣戦布告”だった。
そして大会後、堀口選手はパフォーマンス・オブ・ザ・ナイト賞の
5万ドル(約782万円)も獲得。UFCが認めるほど鮮烈な一本だった。
■“小さな巨人”が切り拓く、日本人の未来
世界中の猛者がしのぎを削るUFC。
そこには国家規模でバックアップされるロシア勢、アメリカ勢、ブラジル勢が当たり前のように存在し、実力の差は残酷なほど明確だ。
だが、堀口恭司選手は違う。
日本の道場で武道を学び、身体も決して大きくない。
それでも“世界の壁は破れる”と証明し続けてきた。
そして今回、
「ダゲスタンの牙城を正面から切り裂いた日本人」
という新たな勲章が加わった。
9年ぶりの復帰戦で、一本勝ち。
これほど強烈な“帰還の狼煙”が他にあるだろうか。
■次はベルト。その先は伝説へ
UFCフライ級には、
ダゲスタン勢、ブラジル勢、アメリカ勢が連なる群雄割拠の戦場が待っている。
だが堀口選手の戦い方を見た誰もが、声をそろえて言うだろう。
「日本人は、まだ世界の頂点を奪える」と。
そして・・・その先には気の早い話と前置いて、
堀口選手と朝倉海選手の三度目の試合をUFCで観たいと絵空事を浮かべてしまう。
【文:高須基一朗】



