朝久泰央選手、戦略性で掴んだ二階級制覇─試合を支配したのは「技」よりも“判断力”だった

【©️K-1】
K-1 WORLD MAX 2025 のリングで、新たな王者が静かに階段を上がった。
元ライト級王者・朝久泰央(朝久道場)が、稲垣柊(K-1ジム大宮チームレオン)との3Rを通じた細密な主導権争いを制し、第8代K-1 WORLD GPスーパー・ライト級王者に就任。判定2-0(30-29、29-29、30-28)という数字が示すのは、劇的な打ち合いではなく、緻密な計算と冷静なペース管理だった。
■試合内容:派手さよりも「試合構築」の上手さ
階級を上げてから4連勝と、キャリアの波が最も高まっている朝久は、序盤から前蹴りと角度を変えたフックで試合の“温度”を掌握。
攻め急ぐことなく、稲垣に反撃の選択肢を与えない距離に自らを置き続けた。
対する稲垣は、今年5月に前王者ヨードクンポンにKO負けを喫してからの再起戦。三度目の王座挑戦に背水の覚悟を持ち込んだが、序盤の交換では朝久の“攻防の締まり”に苦しんだ。攻め手を出した直後に差し返される場面が目立ち、流れをつかみにくい展開が続く。
最も会場が揺れたのは3R。稲垣が接近戦のヒザと、左の飛びヒザで勝負をかけ、局面の強度を一気に引き上げた瞬間だ。しかし、それでも朝久のリズムを崩す決定打とはならない。
結局、3R通して主導権の所在が大きく動くことはなく、朝久がわずかな“積み上げ”の差で勝利を引き寄せた。
■二階級制覇の意味:自身とK-1への“信念表明”
戴冠後の朝久は、熱狂をあおることもなく、静かに、そして強く語った。
「愛と誇りを持って前に進む。それが王者であることの喜びです」
そして最後に放った一言が、観客の耳を最も強く撃った。
「誰がなんと言ってもK-1が世界だ。」
この言葉は単なるパフォーマンスではない。
国内外で立技団体が増加し、ONE Championship が翌日に国内大会を控える中で、K-1という枠組みを“中心”として再定義する意思の表明でもある。
今のキック界で、K-1という看板の存在感が揺らいでいることを理解した上で、それでも朝久は「変わらずK-1を選ぶ」と宣言した形だ。
競技で頂点に立つだけでなく、「どこで戦うか」をも自ら選び取った王者。
今回の勝利は、階級制覇以上に、“自身の場所と武器を見失わない”という強さを刻む一戦となった。
