アメリカ司法が動いた─NBA関係者の違法賭博疑惑、米刑法から見る法的リスクとは !?

2025.10.24

 

開幕したばかりのNBAで、選手と指導者が同時に

連邦当局に逮捕されるという前例のない事件が発生した。

現地10月23日、FBIはマイアミ・ヒート所属のガード、テリー・ロジアーと

ポートランド・トレイルブレイザーズのヘッドコーチ、

チャウンシー・ビラップスら30名以上を

「違法ギャンブルおよびインサイダー取引に関連する容疑」で拘束した。
NBAにおける「賭博事件」としては過去最大級の規模であり、米司法当局は「スポーツの公正性を脅かす重大犯罪」として捜査を進めている。

 

■ 連邦法で定義される「違法賭博」と「情報漏洩」

ロジアーの容疑は、NBA選手として知り得た非公開の試合情報を賭博関係者に提供したというものだ。
この行為が適用される可能性があるのが、アメリカ連邦刑法第18編第1955条(Title 18, U.S. Code §1955)に定められる「違法賭博事業の運営」および第1343条(Wire Fraud:電信詐欺)だ。

◉§1955(Illegal Gambling Business)
→ 州法で違法とされる賭博を5人以上が関与して行い、かつ30日以上または2,000ドル以上の収益を上げた場合、最長5年の懲役および25万ドル以下の罰金が科される。

◉§1343(Wire Fraud)
→ 電話・インターネット等の通信手段を使って虚偽情報を流布した場合に適用。スポーツ賭博に関しては、内部情報を使った賭け行為が「詐欺的通信」とみなされうる。

 

ロジアーの場合、「欠場・途中交代」といった内部情報をもとに不当な利益を得たとされる。これは証券取引におけるインサイダー取引に似た構造を持ち、「スポーツ版インサイダー事件」として注目されている。

彼の弁護人は「見せしめ的な逮捕」と反発しているが、

FBIは「連邦法における公正取引の原則」を根拠に捜査を続行中である。

 

■ 闇ポーカーと組織犯罪─ビラップスの容疑

一方、元NBAスターで現在ブレイザーズを率いるビラップスは、

マフィア系組織が運営する違法ポーカー賭博に関与した疑いで逮捕された。
ここでは主に連邦刑法

第18編第1955条(違法賭博)に加え、

第1956条(マネーロンダリング防止法)、

第1962条(RICO法:Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)

の適用が検討されている。

◉RICO法(§1962)
→ 組織的な犯罪活動に関与した場合、直接的関与者だけでなく「資金流用・利益享受者」にも刑事責任を問う。
→ 最長20年の懲役、または不正利益の没収が命じられる。

 

報道によれば、ビラップスは2019年から不正な手口を用いた闇ポーカーに関与していた疑いがあり、組織犯罪との結びつきが焦点となっている。
なお、アメリカでは州ごとに賭博の合法範囲が異なり、ネバダ州やニュージャージー州ではスポーツベッティングが合法だが、マフィア系賭博はすべて連邦法上の重罪に分類される。

 

■ NBA倫理規定と司法の狭間で

NBAの規約(Article 35A)では、選手・関係者による「リーグの結果に影響するいかなる賭博行為」も明確に禁止されている。
しかし、連邦法における「違法行為」とは必ずしも一致しない。
そのため、リーグは独自調査の結果「ロジアーに違法性は認められない」としていたが、FBIは刑法上の要件から再捜査に踏み切った。

全米バスケットボール選手協会(NBPA)は声明でこう述べている。

「試合の公正性は最重要事項だが、推定無罪の原則(Presumption of Innocence)もまた同じく尊重されるべきだ。」

司法とスポーツ倫理の線引きは容易ではない。
アメリカの刑事司法制度では、起訴がなされない限り「犯罪者」と断定されることはない。現時点で両者は「逮捕」段階にとどまっており、有罪判決が出たわけではない。

 

■ 法の下で問われる「公正性」

今回の事件は、単なる「賭博スキャンダル」ではなく、スポーツ産業における情報倫理と刑事責任の交錯を示している。
連邦刑法の枠組みからすれば、違法賭博は「経済犯罪」であると同時に、「公共の信頼を損なう犯罪」と位置づけられている。
FBIが異例の規模で捜査を展開した背景には、スポーツ市場の巨大化に伴う法的リスクの拡大がある。

アメリカでは今後、スポーツリーグと司法当局の協働による「情報倫理の透明化」が求められるだろう。
NBAは選手・指導者の倫理教育を強化する方針を示しており、

今回の逮捕はその転換点となるだろう。