ピカソ戦を徹底分析!「自分をコントロールできなくなっていた」—それでも勝ち切った井上尚弥選手の王者の成熟

2026.1.7

【画像提供:Blackbear Boxing/ 文:高須基一朗】

プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(32=大橋)が、12月27日にサウジアラビアでアラン・ピカソ(25=メキシコ)を3―0の判定で下した一戦は、結果以上に多くの示唆を残す試合となったこの試合を、

改めて徹底分析していきたい。


 

KO決着はならず、キャリア初となる2試合連続の判定勝利。

内容に対しては、父で専属トレーナーの真吾氏が「尚弥の試合ではない」と厳しい言葉を投げかけたことも話題となった。

しかし、この試合を“物足りなさ”だけで片付けてしまうのは、あまりにも表層的だろう。

むしろ、この一戦は井上尚弥選手というボクサーが、試合の外側にあるあらゆるノイズを抱え込みながらも、最後は勝利という結果にたどり着いた“成長の証明”だった。

試合前から、バンテージチェックを巡るピカソ陣営の執拗な指摘など、独特の緊張感が漂っていた。アウェーの地で行われるビッグマッチでは珍しくない光景とはいえ、集中力を削ぐには十分な“揺さぶり”だったのは確かだ。

井上選手も試合後、「自分をコントロールできなくなっていた部分があった」と率直に、一連の嫌がらせ行為について認めている。

それでも、井上選手は、試合になれば、いつもとは違う

力む展開でも、大きくは崩れなかった。

本来、陣営にはピカソ対策として、ディフェンスに徹しながらカウンターで仕留める“KOへの明確な設計図”が用意されていたという。

だが、その秘策は最後まで封印された。

理由は単純ではない。

試合の流れ、相手の出方、そして何より自らの内面の揺らぎを、リング上で瞬時に判断し続ける必要があるのがボクシングの世界最高峰の戦いだからだ。

真吾トレーナーが指摘した「ピリピリ感の欠如」は、

確かに井上選手の本来の圧倒的な破壊力とは異なる風景を生んだ。

だが見方を変えれば、無理にリスクを取りに行かず、勝利から逸脱しない選択をし続けた“判断力”こそが、この試合の本質だったとも言える。

メインイベントを前に、名アナウンサー、マイケル・バッファー氏の声が響き渡り、ムハマド・アブド・アリーナは異様な高揚感に包まれた。慣れない空気、長距離移動、時差、そして見えないプレッシャー。そのすべてが、王者の肩にのしかかっていた。

それでも井上尚弥選手は、倒し切れない夜を受け入れ、勝ち切った。

全盛期の“モンスター”が、常に派手なKOを量産する存在だとするならば、今回の井上選手は、勝利の形を選び取れる王者へと進化した姿と表現できるだろう。

試合外での不穏な空気や心理戦を含め、リング上の12ラウンドを完走し、ベルトを守り切る—それは、単なる技術やフィジカルを超えた“統一王者としての成熟”を意味する。

真吾トレーナーの苦言は、決して否定ではない。

むしろ、それだけ高い次元で戦いを見ているからこその言葉だろう。その厳しさを受け止められる関係性が、井上尚弥選手の近代ボクシングでの最高峰の現在地を物語っている。

倒せなかった夜。だが、負ける要素を一つも与えなかった夜でもある。

この試合は、井上尚弥選手が「勝ち方」だけでなく、

「勝ち続ける在り方」を手に入れつつあることを示した、

静かだが確かな一歩とも加えておこう。