プロ・ボクシング興行のリング事故で2選手死亡 JBCに問われる「安全配慮義務」と再発防止策の実効性

2025.10.1

プロボクシングの統括団体・日本ボクシングコミッション(JBC)は

10月1日、今年8月に後楽園ホールで同日に2選手が死亡したリング事故をめぐり、

事故検証委員会(委員長=弁護士・岡筋泰之氏)から提出された

中間報告の内容を公表した。

報告書では、過去の事故後に提言された再発防止策の実施が

不徹底であったことや、抜本的な安全管理の組織改革が

遅れている点が厳しく指摘された。

 

▪️法律的に問われる「安全配慮義務」

民法や判例上、競技団体には選手の生命・身体を守るための「安全配慮義務」が課されている。特に危険性の高いスポーツにおいては、組織側がどの程度の安全対策を講じていたかが法的責任の判断基準となる。

今回の中間報告は、2023年12月の死亡事故後に提言された再発防止策をJBCが十分に徹底しなかったと認定しており、法的観点からも「安全管理体制を怠った」と評価される可能性がある。万一、遺族が損害賠償請求を行った場合、

組織としての過失責任が問われかねない重大な内容だ。

 

▪️指摘された改善点と法的課題

中間報告では、従来策の徹底に加えて以下の改善が提言された。

・健康管理委員会の再編と権限強化

・後方支援病院の拡充および緊急搬送手順の見直し

・トレーナー教育の徹底と過度な減量(特に水抜き)への規制強化

・将来の健康管理を見据えたデータ収集

 

これらは単なる技術的・医療的措置にとどまらず、JBCにとっては「選手の労働安全衛生」に相当する組織的義務としての法的位置付けが求められる。

とりわけ過度な減量の問題は、健康被害の予見可能性が高いことから、今後ルール化や制裁規定が伴わなければ法的リスクを回避できない可能性がある。

 

▪️今後の制度改革の方向性

JBCは「指摘を重く受け止め、制度設計およびルール改正を推進する」と表明したが、実効性ある改革には以下の点が焦点となる。

・独立性の高い第三者委員会による継続監視

・医療体制の法的基準化(搬送時間や病院提携などの明文化)

・減量ルールに関する強制力ある規制

・事故発生時の法的責任分担の明確化(JBC・ジム・主催者の責任範囲)

 

今回の事故は、スポーツ組織が法的にどこまで安全確保の責任を果たすべきかを突きつけた重大事案である。JBCの対応次第では、今後のボクシング界全体のガバナンスや競技団体の法的責任のあり方に一石を投じる可能性がある。