MLBに激震 クラセ投手に賭博疑惑“規則の抜け穴”で有給休暇扱い、処分回避の構図とは
【©️Emmanuel Clase】
米大リーグ機構(MLB)は28日(日本時間29日)、クリーブランド・ガーディアンズの守護神、エマヌエル・クラセ投手をスポーツ賭博に関連する調査の対象とし、8月31日までの有給休暇(Administrative Leave)処分としたと公式発表した。
この措置には「懲戒処分ではない」という但し書きが付されており、MLBと選手会(MLBPA)との合意に基づく制度上の“抜け穴”を利用した判断とみられる。
▪️スター守護神に賭博疑惑、しかし処分は「有給休暇」
クラセ投手は昨季47セーブを挙げてセーブ王に輝くなど、2022年から3年連続でアメリカン・リーグ最多セーブを記録。今季も既に24セーブをマークしており、ガーディアンズの勝ち試合を締めくくる柱として活躍していた。
だが、今回の処分により、クラセは少なくとも8月末までは戦列を離れる。なお、MLBの発表によれば、この休暇は「非懲戒的措置(non-disciplinary)」とされ、給与とサービスタイム(年俸算出の基準)も通常どおり支払われる。
▪️“追放”規定もあるMLBギャンブルポリシーだが「起訴前」は処分できない?
MLBの《ギャンブルに関する規定(MLB Rule 21)》では、自らが関与する試合への賭博を行った選手には「永久追放」、それ以外の試合であっても「最大1年間の出場停止」と厳罰が科される可能性がある。
一方で、MLBの現行ルールでは、選手が刑事起訴されていない段階で正式な処分を下すことが困難であり、その間に選手をチームから隔離するための手段として用いられるのが、今回の「有給休暇制度」だ。
この制度は、懲戒処分の手続き前に選手を一時的に離脱させるための措置であり、原則としてMLBと選手会の同意がなければ適用されない。選手側の「無実を主張する権利」や「適正手続き(Due Process)」が強く保護されているため、刑事事件化していない段階では“実質的処分”ができない構造がある。
▪️処分回避の“グレーゾーン”、制度の濫用との声も
こうした仕組みにより、選手が実質的に球団から離脱しながらも、給与や年俸査定に影響を受けずに済む「温存措置」が可能となる。
クラセに対する処分は、まさにその“抜け穴”を利用した典型例といえる。
リーグ関係者の間では「これでは懲戒処分とならず、抑止力として機能しない」「調査が長期化すれば、事実上の“有給長期休暇”になる」といった批判の声も上がっている。
▪️球団声明「他選手・職員には影響なし」
ガーディアンズ球団は、クラセに対する措置について以下の声明を発表している。
「スポーツ賭博調査の一環として、エマヌエル・クラセは非懲戒の有給休暇となっていると、ガーディアンズはMLBから通達されました。これはMLB選手会との合意に基づくものです。他の選手や球団職員は影響を受けない見込みとの連絡を受けています。球団としては、現時点でさらなるコメントをすることは許可されておらず、リーグの調査に全面的に協力し、プロセスを尊重していきます」
なお、同球団ではルイス・オルティス投手も同様の理由で有給休暇処分を受けている。
▪️法と倫理のはざまで─MLBが直面する“抑止力の限界”
スター選手の関与が相次ぐ中、MLBはギャンブルとの距離のとり方に大きな課題を抱えている。合法スポーツベッティング市場の急拡大という時代背景の中で、選手や関係者の倫理意識をどう保ち、どこまで処分を徹底できるのか。
規則はある。だがその運用には、いまだ大きなグレーゾーンが残されている。
※本記事では、MLBの規定および関連する制度(MLB Rule 21、Administrative Leave制度など)に基づき、報道および解説。
【文:高須基一朗】