那須川天心と中谷潤人の「リアルな実力差」

2025.6.9

2025年6月8日、東京・有明コロシアム。ボクシングファンの熱気が渦巻く中、日本ボクシング界の未来を担う2人の男が、それぞれ異なる形でリングに立った。那須川天心と中谷潤人──。同じバンタム級を主戦場とする2人だが、その夜に見せたパフォーマンスは、期待と現実のギャップをも映し出していた。

 

▪️判定勝利の那須川、KO勝利の中谷─明確な“差”を残した二人の夜

セミファイナルで登場した那須川天心は、WBA世界バンタム級6位のビクトル・サンティリャン(ドミニカ共和国)と対戦。試合は那須川が終始主導権を握り、スコア99–91、99–91、100–90の3-0判定で完勝した。

だが、スコアに現れない“重さ”の部分で課題が浮き彫りとなった。全体のパンチヒット数では上回ったものの、クリーンヒットの割合は伸び悩み、倒し切る展開には至らなかった。サンティリャンは世界10傑の一角とはいえ、那須川が目指す“世界王者”の水準には、決定打不足という明確な課題が残った。

一方、メインイベントで行われたのは、WBC世界バンタム級王者・中谷潤人とIBF同級王者・西田凌佑による日本人同士の統一戦。中谷は試合序盤から真っ強勝負で強打を次々に撃ち続ける。

左の得意とするオーバーハンド気味の剛腕は、相手選手のガード越しでも、お構いなしに攻撃。

圧力をかけ続けた結果、西田は第3ラウンドに右肩を脱臼。

第6ラウンド終了時点でセコンドが棄権を告げて試合はストップ。

中谷がTKO勝利で2団体統一王者となった。

 

▪️西田との統一戦を制した中谷、“本物の世界王者”へ

中谷はこの勝利でWBCとIBFの二冠を手にし、さらに権威ある『リング誌』の世界王座にも認定された。これにより中谷は、名実ともにバンタム級の“キング”の座を獲得したことになる。試合内容も圧巻で、タイミングと距離感、そして圧倒的な殺傷力の左拳の破壊力、

そして試合運びにおいて一切の隙を見せなかった。

西田は健闘したものの、試合序盤での肩の故障というアクシデントにより力を出し切れず。だが、それを突き崩した中谷の本試合での完成度は疑いようもなく、世界的にも“PFP(パウンド・フォー・パウンド)級”の選手であることを証明した。

 

▪️那須川は“勝った”のか、“勝ち切れなかった”のか

一方、那須川天心は、無敗記録を守りながらも、今回の試合内容で「世界挑戦への距離」が浮き彫りになった感が否めない。彼のスピード、フットワーク、カウンター精度はいずれも高水準にあるが、対世界ランカーとの試合では「KO率の低さ」「パンチの説得力不足」が懸念材料として表面化した。

中谷のように“世界王者を圧倒するKO劇”とは対照的に、那須川の勝利は「安心して見ていられるが、驚きはなかった」という声も多く聞かれた。

 

▪️「才能の証明」から「完成度の競争」へ

那須川は試合後、「まだまだ足りない」と自己分析をし、世界戦に向けての課題として「フィジカル」「プレッシャー下での集中力維持」「倒し切る力」を挙げた。これは、すでに完成された“世界の中谷”との差を、本人も肌で感じている証左だ。

同階級に怪物だらけな日本人が指折りいる中で生き残れるのか!?

 

【文:高須基一朗】