ボクシング世界4階級制覇の田中恒成選手、29歳で電撃引退へ

2025.6.4

田中恒成、29歳で電撃引退 世界最速4階級制覇王者がグローブを置く

ボクシング界で史上最速となる世界4階級制覇を達成した田中恒成(29=畑中)が6月4日、名古屋市内で記者会見を開き、現役引退を表明した。引退の理由は両目の深刻なケガ。「プロボクサー田中恒成はここで引退することをご報告させていただきます」と語り、「悔しさよりも感謝の気持ちが強い」とすがすがしい表情を浮かべた。

 

▪️両目のケガが引退の決断に

昨年10月、WBO世界スーパーフライ級王座の初防衛戦でプメレレ・カフ(南アフリカ)に1-2の判定負けを喫した試合が、結果的にラストファイトとなった。この一戦は網膜剥離を含む両目の不調を抱えながらのリングであり、試合中には「右目が見えなくなり、光も消えた」と当時の苦しい状況を明かした。

手術を受けて視力は回復したものの、焦点を合わせることができず、医師からは「次の1戦が失明につながる可能性もある」と指摘された。復帰を模索していた田中だったが、今年4月頃に現役引退を決断した。

 

▪️日本人史上3人目、最年少での快挙

田中は2013年11月にプロデビュー。

2015年5月、わずか5戦目でWBO世界ミニマム級王座を獲得し、日本選手として最速の世界王者となった。以降、ライトフライ級、フライ級、スーパーフライ級と階級をまたいで王座を獲得し、2023年2月には21戦目での4階級制覇という世界最速記録を樹立。井上尚弥、井岡一翔と並ぶ偉業を成し遂げた。

そのキャリアの特徴は、格下を避け、常に自らを極限まで追い込むマッチメイクにあった。21戦中、対戦相手の大半が元世界王者や世界ランカーという過酷な道を選び続けた。

 

▪️最後まで向き合った「ボクサー人生」

試合後、自身のSNSで「この負けにも絶対に諦めません」と綴っていた田中。再起戦の計画も浮上したが、最終的にはリングを去る道を選んだ。「黄金世代」と呼ばれる1995年生まれの井上拓真らと切磋琢磨できたことを「誇り」と語り、ファンや家族、所属ジムの畑中会長、トレーナーの父・斉氏ら関係者への感謝の言葉を繰り返した。

「5階級制覇という目標に届かなかった悔しさはあるが、それ以上に感謝がある」。田中恒成はボクサーとして、濃密な10年を駆け抜けた。

 

▪️プロフィール

田中恒成(たなか・こうせい)
1995年6月15日生まれ。岐阜県多治見市出身。165cmの右ボクサーファイター。中京高校では高校4冠を達成し、2013年プロデビュー。

2015年に世界ミニマム級王座を獲得後、4階級で世界王座を制覇。

戦績は22戦20勝(11KO)2敗。

兄・亮明は東京五輪ボクシング男子フライ級銅メダリスト。