冬季五輪初のPFASワックス禁止が適用の余波・・・スノーボード競技で禁止ワックス使用により失格の波紋拡大…PFASでの死亡例も取り立たされる

2026.2.20

ミラノ・コルティナオリンピックで日本勢が躍進するなか、雪上競技の現場で波紋を広げる事案が発生した。スノーボード・パラレル大回転に出場した斬波正樹選手が、レース後の用具検査においてボードからPFAS(有機フッ素化合物)の成分が検出され、規定に基づき失格となった。

五輪においてPFAS含有ワックスの全面禁止が厳格適用された後、

初の失格事例とみられる。

もっとも、本件については、選手本人および関係各所が「故意の使用ではない」ことを明確に説明しており、現時点で意図的なルール違反を裏付ける事実は確認されていない。
検出はあくまで成分分析の結果に基づくものであり、

違反の“意図”までを認定するものではない点は冷静に受け止める必要がある。


▪️五輪で初のPFAS全面禁止の厳格運用

雪面との摩擦を抑え、滑走性能を高めるために用いられるワックスは、気温や雪質に応じて細かく使い分けられる。とりわけ水分の多い雪では高い撥水性を持つフッ素系ワックスが優位とされ、長年、競技力向上の要素の一つとされてきた。

しかしPFASは、自然界で分解されにくく、健康や環境への影響が国際的に懸念されている物質群である。これを受け、国際スキー・スノーボード連盟(FIS)は2023/2024シーズンからフッ素系ワックスを全面禁止。今大会は、その方針が五輪で初めて厳格に適用された大会となった。

PFASは耐熱性・耐水性・低摩擦性に優れる有機フッ素化合物の総称で、かつては工業製品や潤滑剤などにも広く利用されてきた。一方で、発がん性の可能性などが指摘され、各国で規制が進んでいる。


▪️通常とは異なる工程の可能性も・・・ただし故意使用の確認はなし

関係者によれば、斬波選手はこれまで国内メーカー製のフッ素フリー製品を使用してきたという。実際、山形県鶴岡市のワックスメーカー「ハヤシワックス」も、自社製品はフッ素フリーであり、自社製品由来ではないとの説明を公式に公表している。

一部では、レース前夜に通常とは異なる体制でワクシングが行われた可能性も指摘されているが、いずれも調査・確認が進められている段階であり、違反を意図した行為があったとする事実は示されていない。

ワクシング工程では、固形ワックスをアイロンで溶かし滑走面に浸透させるが、過去に使用された器具や環境由来の微量成分が残留する可能性を完全に排除することは難しいとの指摘もある。大会では専用機器による即時検査とサンプル分析が実施され、微量であっても規定値を超えれば失格となる厳格な基準が適用されている。

今回の措置はあくまで検査基準に基づく機械的判断であり、

選手の倫理性や姿勢を否定するものではない。

▪️規制強化の背景にある健康懸念

PFAS規制が強化された背景には、健康被害への懸念がある。スキー大国ノルウェーでは、長年ワックス作業に従事していたトリル・ストッケボ氏の事例が報じられ、ワクシング作業と健康影響の関連性が社会的議論を呼んだ。

ワクシングでは、加熱により発生する蒸気や微細粒子を吸い込む可能性がある。スウェーデンの研究では、ワックス技術者の血中PFAS濃度が一般市民と比較して著しく高かったとの報告もある。

こうした知見が、FISによる全面禁止の決断を後押しした。

▪️問われるのは「意図」ではなく運用体制

雪上競技においてワックスは“見えない技術”とも称される。ベース処理から仕上げまでの工程は極めて繊細で、競技結果に影響を与え得る。

ただし今回の事案は、意図的な不正が確認されたケースではなく、

厳格な新基準下で発生した検出事例である。
選手本人および関係者が一貫して故意を否定していること、また使用製品がフッ素フリーと説明されている点は、冷静に共有されるべき事実だ。

持続可能性を重視する時代において、スポーツ界は公平性と安全性の両立という課題に直面している。
同時に、選手個人への過度な非難や憶測を排し、事実関係に基づいた議論を行うこともまた、競技の健全性を守るうえで不可欠である。