中谷潤人選手は試練―5月東京ドーム決戦は本当に実現するのか!? 両者勝利の裏に浮かんだ「差」と「不確実性」
サウジアラビア・リヤドで行われた注目の一夜は、
日本ボクシング界の未来を占う意味で、決して単純な“前哨戦”ではなかった。
4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥選手(大橋)と、
来年5月の東京ドーム決戦が取り沙汰される中谷潤人選手(M・T)は、
ともに判定勝ちを収めた。
しかし、その内容と試合後に残した印象は、対照的と言わざるを得ない。
井上尚弥選手はWBC同級2位アラン・ピカソ(メキシコ)を相手に、
判定3―0で防衛に成功。KOこそなかったものの、
試合を通して主導権を握り続け、ジャッジ1人はフルマークをつけた。
本人は「今夜はよくなかった」と自己評価を下げたが、
ダメージのない顔でリングを降りた姿が、この試合の本質を物語っていた。
倒し切れなかった事実よりも、「危なげなかった」という現実の方が重い。
一方で、中谷選手の置かれた状況ははるかに厳しかった。
スーパーバンタム級転向初戦となったノンタイトル12回戦で、WBC同級9位セバスチャン・エルナンデス(メキシコ)と対戦。
序盤からプレスを受け、クリーンヒットを重ねても決定打にならず、
試合は終盤までもつれ込んだ。判定3―0とはいえ、2者は115―113の僅差。
右目を大きく腫らし、サングラス姿で会見に現れた姿は、
内容の苦しさをそのまま映していた。
中谷選手は「タフな試合だった」「最後まで気持ちを切らさなかった」と語り、
さらに「これがリアルな立ち位置」と現状を受け止めた。
その言葉には、敗北に近い勝利をどう次につなげるかという切実さがにじむ。
東京ドームでの井上戦を語る以前に、スーパーバンタム級という新天地への適応という、避けて通れない課題が浮き彫りになった。
さらに試合後、井上尚弥選手自身の口から飛び出した“フェザー級転向”の可能性は、
ドリームマッチの前提条件を揺るがせた。
中谷選手は「やれないとなると寂しさはある」と率直な胸中を明かしつつも、
「PFP1位、この階級で世界王者になる」という目標はぶらさないと強調。
対戦相手ありきではなく、自身のキャリアを見据える姿勢を示した。
井上尚弥選手は、その後に「もちろん来年5月にやるつもりはある」と
中谷戦への意欲を改めて表明しつつ、「話をかき乱してしまって申し訳ない」と釈明も添えた。フェザー級挑戦は5月以降―そう整理されたものの、ボクシング界では計画が予定通り進まないことも珍しくない。
両者とも勝利した。
それでも、そこに残ったのは単純な期待感ではなく、明確な“差”と“未解決の要素”だ。井上は依然として完成度の高さを示し、中谷選手は課題と向き合う立場にある。5月、東京ドームで両者が向き合うためには、勝敗以上に、それぞれがこの現実をどう乗り越えるかが問われている。
ドリームマッチは、すでに始まっている検証の延長線上にしか存在しない。

