― また、その一方で、昨日(四月三日)行われたPRIDEについていえば、元リングスの阪剛選手とヒョードル選手がリングス時代から続く因縁の対決を実現させましたよね。あの試合はご覧になりましたか。 |
前田 いや、まだ結果しか聞いていないんです。まだ動いているところを見ていないんでなんとも言えませんが、たしか、眼のあたりが切れちゃって試合が決まっちゃったんですよね? 自分はそのことを前から危惧していたんですよ。それさえなかったらいつもいい試合をする選手なんですけどね。彼は顔を切るというのがトラウマになっているんですよ。試合が優勢だろうが何であろうがそれでいつも試合を逃していますからね。 |
― 今回は眉上ではなくて目頭の上のあたりを切ってしまったんで、試合としてはやはり難しい内容になってしまったのかなという印象がありました。それほど深くはなかったとは思うんですけど。 |
前田 今の格闘技のリング・ドクターに、いい「止血屋」がいないんですよ。ボクシングでよく見るような止血のテクニックを持っている人がね。だから、血が出てきてしまったら試合を止めざるを得ないんですね。 |
― では、その阪選手とヒョードル選手についてのお話を聞かせてください。あの二人のような元リングスの選手が現在の格闘技シーンの最前線で活躍をしていることについて、前田さんはどのように考えていますか。今はPRIDEという母体の上で試合をしていますが、後々にはHERO‘Sの興行で試合をさせたいという気持ちはあるのでしょうか。 |
前田 そうですね。ただ、どういう契約の上でPRIDEにいるのかわからないのでそのあたりを調べてからになりますけど、今後はそういう可能性も十分秘めていると思いますよ。 |
― 他に、前田さんが日本人選手の中で注目している選手は誰かいますか。 |
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前田 やっぱり、宮田くんですね。今彼はアマレスの技術しか持っていないんですよ。それなのにあれだけ上位の選手と試合ができるというのは、自分の中である意味驚きだったんですよね。もう今の総合格闘技はアマレスの技術だけで勝てるという時代ではないですから、これから身につけないといけないことは山ほどあるとは思うんですけど、彼に関しては本当に力のある選手だと思っていますね。でも、今回の試合についてあえて言えば、身体を絞りすぎていたということじゃないですかね。それが原因で途中で動きが失速する場面がありましたから、そこは今後うまくやってほしいと思いますよ。あの度胸とか総合に対するセンスだとかは、他の選手にはないすばらしいものがあるんで、本当にがんばって欲しいですね。 |
― 宮田選手の場合、周囲の期待値が高い反面、未だに結果が出ていないという事実もあるんですが、そのあたりはどうですか。 |
前田 彼は、いい意味でも悪い意味でも、勇気がありすぎるんですよ。 |
― 確かに、K‐1の1日前のオファーで試合に出ることを決めてしまうくらいですからね。 |
前田 1日前というより前の晩ですよ。普通なら出ないですよ。それに宮田くんはそれまでK‐1とはまったく関係のないところで生きていた人なわけじゃないですか。今回の秋山くんのケースもすごいと思いましたけど、宮田くんはそういうところは飛びぬけていますね。だから、ひとつ結果につながるような試合をやってもらって、それをバネにして飛躍していって欲しいですね。そういえば、KIDが試合前に「アマレスのオリンピック・クラスは人間ではない」というようなことを言っていましたけど、宮田くんを見てその意味が少しわかったような気がしましたよ。あれは本当に「選ばれし者」、ですね。 |
― 身体の筋肉の作り的な面で、ですか。 |
前田 反応、ですよ。それにスピード。 |
― 例えば、今名前が出てきたKID選手と宮田選手のカードなどというのはHERO‘Sにおいて実現する可能性があるんでしょうか。 |
前田 どうでしょうかね。いずれにせよ、宮田くんは技術をつけた方がいいですよ。でも、焦ることはないですけどね。いい素材を持っているんだからここはしっかりと技術を身につけることに専念すればいいんじゃないですか。それで少しずつ総合に慣れていって、自分の持っている技がどういう場面に役に立つのか身体で覚えていけばいい。技術というのは頭で覚えたからといってすぐに使えるというものではないんですよ。どういうときに通用するのか身体に染み込ませていって、はじめて自分のものになるんです。 |
― では最後に、前田さんのプライベートの部分について少しお話を聞かせてください。前田さんは、例えば格闘技の他に何か趣味のようなものをお持ちなんですか? |
前田 趣味なんてたくさんありますよ。 |
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― うちの誌面ではそのようなプライベートの話を聞くのがお約束になっている部分があるんですが、少しその趣味の話を聞かせていただけませんか。 |
前田 そうですね。例えば読書だったら、中国の戦国時代の歴史書を片っ端から読んでいくのが好きですね。例えば「史記」「呂氏春秋」「春秋」「春秋左氏伝」。あと兵法関係の本ですね。昭和十年ごろに発行された全集本なんですが、そういうのが好きですね。そういう七書というのは、四〇を過ぎて読むと胸にしみるんですよ。人間というのは今も四千年前も変わりがなくて、四千年前にも前田日明のような人間がやっぱりいるわけです。そして、そこにその失敗例と成功例が書いてある。そういうのを読んでいるとなんだか身体が熱くなるんですよね。 |
― では、中国の歴史上の人物で「自分と似ているな」と思われた人というのはどういう人なんですか。 |
前田 「ああ、この人の失敗はオレと似ているな」と思ったのは、前漢の時代にいた『李広将軍』ですね。その人の境遇を読んだときに、ちょっとグッとしましたよ。歴史というのには余韻のようなものがあるんですよね。それが誰かが経験したものであったとしても時空を超えて伝わってくるような気がするんですよ。自分にとっては、それが一番役に立つ何かだと思っているんですけどね。 |
― 他に最近ハマっているものはありますか。 |
前田 最近は……、そうですね、インターネット上に戦場があるんですけど、そこで第二次世界大戦のときに使用されていたプロペラ戦闘機を選んで見知らぬ外国人と空中戦を繰り広げていますね。 |
― インターネット上のゲーム、ということですか。 |
前田 そうなんですよ。世界中に二万人くらい会員がいる結構大規模なゲームなんですけど、自分はその中のある隊の隊長をやっているんです(笑)。 |
― 隊長というのはすごいですね(笑)。今部下は何人くらいいらっしゃるんですか。 |
前田 十七名ですね。 |
[ETC]
今回紹介した前田日明氏が今もっともハマっているWEBゲーム“Fighter Ace”。前田部隊に志願したい特攻情熱野郎は、こちらにアクセス!! |
― ということは、前田さんは十七名分の命を預かっているわけですね、インターネット上で(笑)。今の戦況はどのような感じなんですか。 |
前田 去年の夏くらいに、全世界の航空隊の戦績順位で二〇か二十一位くらいだったんですよね。 |
― なんかリアルですね(笑)。 |
前田 いや、本当に良くできたゲームなんですよ。リアル過ぎて一度やったらビックリしますよ。“Fighter Ace”というゲームなんで、もし良かったら試してみてください。 |
― 了解しました。では、今日はありがとうございました。 |
[プロフィール]前田 日明
■生年月日 1959年1月24日
■出身地 大阪府
77年に新日本プロレス入門。78年山本小鉄戦でデビュー。84年にUWFを旗揚げすると格闘技色を前面に出すファイトを展開。その後新日本プロレスを経て、88年第2次UWF旗揚げ。91年リングス設立。99年“人類最強の男”アレキサンダー・カレリン戦で現役引退。その後、リングス代表に就任してアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、エメリヤーエンコ・ヒョードル等を発掘。そして05年、遂にHERO’Sを旗揚げする。 |
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