― 試合前に比べて、すこしは落ち着きましたか。 |
前田 そうですね。でも、俺よりも裏方さんの方がもっと厳しかったと思いますよ。分刻みで動かないと間に合わない状況でしたからね。 |
― でも、前田さんご自身も三週間で今回の興行を完成させたわけじゃないですか。考えてみると、それって奇跡的なことですよね。 |
前田 いやいや、三週間じゃないですよ。受けた時点では三週間を切っていましたから。 |
― 今回の興行を開催するにあたって、前田さんはPRIDEの中で行われるような「四点ポジション」での打撃について気にされていたと思うんですが、そのあたりのことはどうだったのでしょうか。 |
前田 四点ポジションのとき、前から膝蹴りを打つときがあるじゃないですか。そのときって、打たれている相手は頭が下がるものなんです。そうしたら、絶対後頭部に打撃が当たりますよね。でも、後頭部は攻めてはいけないというルールがある。そういうことについてどうやって折り合いをつけていくかということなんですよね。 |
― 今回のHERO‘Sのルールの上では、そのことについてたくさんの話し合いがなされたんですよね。 |
前田 審判団の組織体制によって細かい規定が作りにくいんですよ。だから、討議問題のひとつのテーマとして「四点ポジションにおける前からの膝蹴りについて」については詳しく話をさせてもらいました。あと「十字固めの際における判断」ですね。十字固めのときは腕が伸びたからって何でもかんでも負けっていうことは絶対ないんですよ。本当は手首を内側に返してやったらそう簡単には極まらないものなんです。そう考えると、受けている選手が正当に技を回避しているのに腕が伸びたからって試合を止めてしまうのはおかしいんですよね。そういうミスがHERO‘Sの中では発生しないように何回か話し合いをしたんですよ。 |
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― なるほど。では、早速今回のHERO‘Sの興行内容についてお話を聞かせていただきたいと思います。試合が終了してすこし時間が経ってしまいましたが、全体的な感想の方はどうだったのでしょうか。 |
前田 まあ、率直な感想としては、日本人の選手はやはりポテンシャルが高いと思いましたよね。あと、宇野薫選手に勝利したヨアキム・ハンセン選手なんかを見て思ったんですけど、あのような少し前なら誰も知らなかった選手がこういう風にリングに台頭してくると、世界中にはすごい選手がまだまだいるんだなと再認識しましたね。正直言ってビックリしましたよ。やはり、向こうの選手は、寒い地域特有の「ねちっこさ」というかね、そういう強さを持っていると思うんですよ。 |
― ロシア出身のアラン・カラエフ選手なんかもそうですよね。 |
前田 負けたけどあの身体の強さは他の地域出身の選手にはないものでしょうね。 |
― アラン選手のところには、他にも何人か同じようなロシア人選手がいますよね。 |
前田 厳密に言うと彼らはロシア人ではないんですけどね。確かに、あの辺の国は格闘技が盛んなところなんですよ。国の各地を見てみると、総合系の小さなトーナメントのようなものがあちこちにいっぱいありますから。だから、もっと本腰を入れて探してみたら、とんでもない選手がゴロゴロと出てくるんじゃないですかね。そうじゃなくとも、中量級の層はヘビー級と比べて広いですからね。 |
― まだまだ世界中には日本に来ていない強い選手がたくさんいますからね。最近の格闘技シーンではロシアとブラジルが主に格闘技のマーケットになっていると思うんですが、世界的規模で考えた場合前田さんとしてはどの国に注目をしているんでしょうか。 |
前田 いや、世界的規模と言ってしまったら「バリトゥード」というのは成立しないものですからね。だって、ヨーロッパは全面的に、アメリカでもいくつかの州を除いては禁止になっているじゃないですか。日本の隣の韓国だってダメなんですからね。でも、そのことについてはリングスのときにすでに直面していて、世界的なルールで試合をするにはどうすればいいのかということを考えた結果あのようなルールができあがったんですよ。それに、人間というものは制限されることで強くなるということもあるんですよね。ノゲイラだって、あのヒョードルですら、そのような制限があったからこそ技の幅が広くなったという背景があるんです。これはよく言われていることだと思うんですけど、ノゲイラの下になったときの強さというのはそういうところから生まれてきたんですよ。 |
― なるほど。さて、もう少し「HERO‘S」についてお話を聞かせてください。興行の会場では、前田さんご自身が感極まって涙をにじませてしまうようなシーンがあったと思いますが、あの瞬間はどのようなことが頭にフラッシュバックしていたんでしょうか。 |
前田 まあ、なんていうか、時間的な問題とこの三年間を経た今までのことなんかの厳しい状況がありましたから、やはり、あのような場に立ったときは思わず涙が漏れてしまったんです。 |
― つまり、何か、人に裏切られるような状況があったと? |
前田 まあ、それだけ自分たちがやっていることがメジャーになってきたんだという表れだとも思うんですけど、普通一般の社会常識じゃ考えられないようなことが多かったんで、ちょっとそういう人間を排除しなくちゃいけないな、と思っていた最中だったんですよ。 |
― ということは、今回の興行で「交通整理」的な作業をすることができたということですか。 |
前田 まあ、そういうことになりますね。まだ続いていますがね。もう少しで完了です。 |
― では、今後のことをお聞きしたいと思うのですが、興行の第二回はいつぐらいを予定されているんでしょうか。 |
前田 第一回目は時間がない中で急ピッチで進めた感じがありましたから、第二回目は本当に腰を据えてじっくりやりたいと思っているんですよ。中でも、次回は「選手発掘・育成」に力を入れたい部分がありますから、もう少し時間をおく必要がありますね。そのことを考えていくと、だいたい七月くらいから夏の終わり頃になるんじゃないでしょうか。それで、その形でうまく興行を組むことができたら、その次は九月くらいに大々的なイベントを開きたいと思っていますね。 |
― ということは、夏以降の第二、三回は立て続けという感じになるんですね。 |
前田 そうですね、そうしていきたいとは考えているんですけど。まあ、何よりも今の段階では体制を固めている最中なんで、それが見えてきてからじゃないと明確な形には言えませんけどね。ちょうど今もその体制作りをやっている最中なんですよ。 |
― 以前記者会見でもお話が出ていたんですけど、第二回興行では大山選手や山本KID選手も出場される予定なんですよね。そのあたりのオファーはもうすでに始まっているのでしょうか。 |
前田 オファーはずっと前からかけているんですよ。今回はケガのために出られなかったけど。 |
― ということは、第二回興行の二人の出場は濃厚だと? |
前田 まだこの段階では断言できないですけどね。その出場してもらいたい気持ちではいますよ。 |
― 先ほど「選手の発掘・育成」というお話が出ましたが、以前にもコメントされていた「K‐1の選手を育成して総合の選手に磨き上げてHERO‘Sの舞台に立たせる」というプランについてもう少し詳しくお話を聞かせてもらえますか。 |
前田 寝技の選手が打撃を練習して総合の選手になっていくパターンっていうのはよくあるじゃないですか。自分自身、今までそういう選手はたくさん育て上げてきたということもありますしね。でも、ミルコ・クロコップやマーク・ハントの活躍を見ていると、自分の中で「どこか遠回りをしているな」という気持ちが湧いてくるんですよね。何ていうか、今の格闘技の技術レベルの段階、戦略に合った闘い方をしていくなら、立ち技の選手というのは非常に魅力があるし、今後のことを考えても総合の選手として順調に強くなっていく可能性を秘めていると思うんですよ。 |
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― その話に絡めていくと、以前K‐1の武田幸三選手にインタビューをしたとき「総合格闘技に興味がある」というコメントをもらったことがあったんですよ。例えば、前田さんは武田選手についてはどのような認識でいるんでしょうか。 |
前田 武田選手は立ち技で実力のある選手ですし、総合の方で闘っていくとしても当然前線でやっていけると思いますよ。 |
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